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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
156/1603

2

 仕事に戻りながらも、善大王は問いを続ける。


「……そういえば、今回はフィアがついてくるようなことはないよな?」


 善大王はフィアがついてくるかどうかだけに気を張っていた。もちろん、悪い意味で気になっっているようだが。


「天の国の姫をおいていってもよろしいのでしょうか」

「これは善大王の仕事。火の国との交渉を他国に気づかれてはならない、だろ? それをフィアに知られれば、どこから情報が漏れるかも分からない」


 善大王の意見は正論だった。王としての責任とリスクを考慮した発言。


「彼女ならば口外するようなことはないかと」

「それは俺も理解している。あいつには友達がいないからな。だが、国外の人間が知って利益が得られるわけではない」


 善大王の真っ当な反論は怒涛のように打ち込まれる。

 しかしどうしたことだろうか。彼の反論は王としての意見というよりかは、単純にフィアを連れて行かずに済むように手を打っているようにも見える。


「善大王様の不在中に姫君が何かを起こされても、利益になりませんが」


 シナヴァリア側もなぜかフィアを善大王に預けたがっている。国内に彼女だけを置いておくのが忍びないのか、それともフィアが一人だと止められる人間がいないと考えているのか。


「ライト! どこか遊びにいかない?」


 機嫌がよさそうなフィアが執務室に入ってきた時点で、二人は黙り込んだ。

 フィアの処遇を決めている最中だと知られれば──しかも両者が押し付け合っているともなればどうなるかは火を見るよりも明らか。


「む、どうしたの?」


 フィアは首を傾げ、目を閉じようとした。


「なんでもない! よし、すぐにでも遊びにいこう! そうしよう」

「うん!」


 フィアはすぐに目を開け、善大王の腕に抱きついた。

 善大王もフィアも、純粋に遊ぶのは久しぶりということもあり、どこなく両者は喜びを顔に表していた。

 遊びに行く為の障壁となるシナヴァリアも、今日ばかりは事情が事情なだけに、口を噤んだ。


「ってことで、俺は一人でどうにかするからな」

「…………分かりました。くれぐれも、向こうで事件を起こさないようにお願いしますよ」

「ああ、分かっているともさ。言われるまでもない」


 そう言いながらも、善大王はそれに一切従う気がなかった。

 フィアを連れて行きたくなかったのもそれが原因。彼女がいるならば、その世話をしなければならない。そうなると、呑気に少女と遊ぶ時間はなくなるのだ。

 善大王はフィアとの約束を果たすべく、手を引いて外に出た。

 歩きながらも、彼の頭の中には火の国で過ごす甘い日々の想像だけが満ちていた。

 そもそも、光の国にいる間は大抵、誰かが傍にいた。朝昼やシナヴァリアが度々現れ、夕刻にもなればフィアが夜までずっと一緒にいる。

 そんな状況だからか、善大王は一切欲求の消化ができていなかった。


「ねぇ、ねぇってば! ライト聞いているの?」

「ああ、どこかの喫茶店で座って話したいんだろ?」

「あっ、聞いてたのね。ごめんなさい」


 さすがは善大王か、意識の大半を使いながらも、フィアの話をしっかり聞いていた。


「はは、俺も少しボーっとしていたからな。それじゃ、そこの店に入るか」


 善大王は軽く返し、喫茶店の中へと足を踏み入れた。

 店内に入り、席に案内されてすぐに、フィアはウェイトレスに注文をする。


「ミルクティーください!」

「えっと……ミルクティーですね。はい、そちらのお客様は」


 フィアがここまで先走ったのは、以前にできなかった善大王との飲み比べをしたかったが為。善大王もその意図は分かっていた。


「じゃあ、アイスコーヒーで」

「げ……」フィアは青ざめる。


 フィアの作戦は崩壊した。彼女は、コーヒーが飲めない。

 ウェイトレスが店の奥へと戻っていくと、フィアは机に突っ伏した。そしてすぐ、不満そうな、それであって物欲しそうな顔で善大王の顔を覗きこんだ。


「ライトぉ……」

「どうした?」

「うぅ……なんでもない」


 自分の思い通りにならなかったことに落ち込み、フィアは涙目になっていた。善大王の前では、とても感情豊かになる。


「(私は強いから、絶対泣かないもん……)」



 涙を流しながらそのようなことを言っても説得力はないが、それを目指して頑張っていることは十二分に伝わった。

 それは、善大王も例外ではない。


「(ちょっと意地悪しすぎたかな)」


 すぐに用意されたコーヒーを前にし、善大王は砂糖の入った瓶を一瞥し、山盛りの砂糖を投入した。


「これで少しはマシになったと思うが」

「ライトは飲めるの?」

「ああ、俺ならば気にするな。今日はちょうど糖分が取りたいところだった。さ、味比べでもしよう」



 フィアは笑みを浮かべると、互いの飲み物を交換した。


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