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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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電撃姫ライカ

「あー、この状況に対する質問は、していいか?」


 俺は牢獄の中にいた。仮にも善大王なのだが、この扱いはどうなのだろうか。

 机を挟み、五人の男を前にしている。無論、全員がしかめっ面だ。


「お前は姫様に不埒な真似をしたであろう!」

「不埒って、まぁ……スキンシップだろ」

「服を脱がすのは過剰なスキンシップだ!」


 結局のところ、俺は親衛隊に文句を言われているのだ。

 善大王などの非世襲制の王ではなく、始祖の血を継ぐ王族――正統王家。彼らはその親衛隊に当たる存在だ。だからこそ、善大王にも平気でモノ申してくる。


「アルマちゃんとは仲直りしたからさ、別にいいじゃないか」

「よくないッ! 姫様はまだ、年端もいかない幼子なのだぞ! その姫様の純潔を汚そうとするなど、許してなるものか! そうだろ諸君!」


 四人はそれに同調し、「おーっ!」と続いた。

 さて、どうしたものか。俺としては早めに済ませて《風の大山脈》へと向いたいところなのだが。


「善大王としての仕事もあるから、帰っていいか?」

「反省する気はない、というのか?」

「いや、反省はしている。だから今後はなるべく手を出さない。それで手を打たないか?」

「なるべ……なるべくで良いと思っているのか!? そもそも善大王は――」

「だからさ、長くしないで欲しいんだ。手短に用件を伝えてくれ。アルマちゃんに謝罪させたいなら、アルマちゃんをここに呼んでくれ、その上で謝る」


 俺ははっきりと言った。元々遠慮するタチではないが、幼女が相手ではないとなると、それは過剰気味に現れる。


「その言葉から反省する気を感じないと言っているのだ!」


 長くなりそうだな、と呆れかけた時、扉を開けてシナヴァリアが入ってきた。


「お前達、何をしている」

「宰相殿、我らは善大王の――」


 シナヴァリアは無表情のまま隊長格らしき男の胸倉を掴みあげる。


「善大王、様だ。お前程度の人間が呼び捨てにすることは許されない」

「善大王……様が姫様に手を出した件を追及していただけだ。正当な行動のはずだが」

「善大王様、《風の大山脈》の件は伝えましたか?」

「一応、仕事があるとは言ったが」


 それだけ言うと、シナヴァリアは鋭い睨みを利かせた。


「くだらない問答に時間を割いている暇はないのだ。今、善大王様が対応しているのは天の国との国交にも関わる問題、自国で揉めていては光の国の信用に関わる」

「そ、それは……だが! 姫様は――」

「正統王家が守ってきた光の国の名が地に落ちることを望むか? ここでお前達が幾ら断罪しようとも、失った他国の信頼は戻ってこない。責任は、取れるのか?」


 親衛隊の男達は勢いを完全に削がれていた。

 ただ、それはシナヴァリアの威圧だけではない。彼の言葉には正論が含まれている、むしろ含まれすぎている。だからこそ言い返すことも出来ないのだ。

 さすがはシナヴァリアといったところか、まったく……敵には回したくない男だ。


「では、善大王様……馬車まで案内します」

「ま、待て! まだ話は……」

「これ以上口を挟むというのであれば、聖堂騎士を出す」


 そこで親衛隊の者達は足を止め、俺達を追ってくることはなくなった。


「いや、シナヴァリア。助かったよ」

「……はぁ、善大王様、素行の改善を心が手欲しいところですが」

「こればっかりは手癖だからな。まぁ、王族相手に手を出したことは反省する、できるだけ直接的なことはしないようにする」


 良くも悪くもシナヴァリアは俺のことを良く知っている。だからこそか、深くは否定してこない。

 幼女愛好主義は少数派でこそあれ、貴族であれば少なからずいるような人間だ。ただ、俺の場合は幼女であれば貴族だろうが王族だろうが、見境なく襲うのが問題なのだが。


「あっ、そういえば少しだけ時間をもらってもいいか?」

「なにかありましたか?」

「少し気合いを入れてやろうと思ってな」


 長い付き合いだけあり、それだけでシナヴァリアは察してくれた。

 俺は のんびりとした調子で大聖堂に入ると、そこでお祈りをしているディックに声をかける。


「よっ、今日もお祈りか?」

「はい、神への祈りは欠かせないので」


 ディックは金髪の比較的若い聖堂騎士だ。男同士、それもこの年なので詳しく知らないのだが、確か二十代前半だったか。俺からすれば子供もいいところだ。

 だが、だからこそか少しばかり目をかけている節もある。器量も良い上、戦闘技術に関しても文句はない。信心深すぎることを除けば気持ちのいい男だ。


「ディック、お前には闇の国へと向かってほしい」


 編成メンバーで、唯一俺が指名したのがディックだ。

 こいつは場数を積んでいけば、確実に強くなれる。そう感じさせるだけの才能があるのだ。


「ハッ、善大王がそうおっしゃられるのであれば」

「ただ、無理はするなよ。危なくなれば逃げてもいい、お前には嫁さんがいるんだからな」

「いえ、そんなことは……」

「お前は一人の幸せだけじゃない。嫁さんの幸せも守ってやらないといけない。早めに式でも挙げたらどうだ? 俺も少なからずはカンパするぞ」


 光の国の結婚式は非常に金がかかる。というよりかは、大聖堂でのそれが莫大な費用を要するのだ。

 民ならばともかく、国に属する者は半ば徴収のような形で大聖堂での結婚を強要されている。高い報酬を払っているからこそ、それを回収されているのだ。

 俺はもとより結婚に興味がないので無縁だが、貴族であればほぼ確実にする。聖堂騎士でも八割はしている。税収は非常にうまいものだろう。


「いつか、お願いします」

「おう、その為に戦ってこい。そして、生き残って帰ってこい」


 それだけを伝えると、俺は大聖堂を後にした。

 馬車に辿りつくと、シナヴァリアが素早く馬具へ《魔導式》を刻みこんでいく。


「ご無事を祈っています」


「しばらくは戻ってこないから、仕事を任せたぞ」

 そうして、俺は《風の大山脈》を目指して旅立った。


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