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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
148/1603

5

 スケープの予感が的中したのか、数人の盗賊が襲いかかってきた。


「よぉ、金持ってそうじゃねえか」

「ガキ三人で旅行かい? 金があるといいねぇ」


 ミネアとガムラオルスは顔を見合わせた。

 今回は護衛対象がいるということもあり、いがみ合っている場合ではないと判断できたのだろうか。


「今回は俺にやらせろ」

「いやよ、ここはあたしの出番。一撃で殲滅した方が安全」


 小声でやり取りをしていたのだが、二人の議題は結局どっちが動くか、だった。


「俺の方が小回りが利く。お前の馬鹿な威力の術では危険だ」

「何よ! あたしが味方に火傷を負わせるようなド下手術者だっていいたいの?」

「そうだド素人! お前は黙ってみていろ!」

「黙っているのはあんたの方! そんな大声だしたらバレるでしょ!」

「小娘、言葉を選べ!」

「は? それはあんたの方よ!」

「お、おい。お前ら何を話してるんだ」


 二人の喧嘩ムードにはついていけなかったらしく、若干呆れたような態度で盗賊が声を掛けてきた。


「うるせぇ!」


 ガムラオルスの蹴りが盗賊の胴体に直撃する。

 足が盗賊の骨をへし折りながら、胴の中央まで食い込んだ。脊椎までは至らなかったが、これでも数ヶ月は動けなくなること必至だ。


「て、てめぇ! こっちが大人しくしていれば調子に乗りやがって」


 残った数名の盗賊達は一斉にナイフを取り出すが、それと同時に数発の炎弾が放たれ、ナイフを溶解させる。


「うぁあああああああああ!」

「なんだこいつら!」


 手に大火傷を負いながら、盗賊達は後ずさりをした。明らかに絡んではならない類の者達と理解したのだろう。


「あたしはこの馬鹿と話しているのよ! 黙っていなさい!」


 あまりの壮絶さに怯え、盗賊達は一目散に逃げていった。


「二人とも、本当に強いね」

「え? ……あっ、そういえばあいつらを追い払おうとしてたんだったかしら」

「ああ、どうやらお前は忘れていたようだが」

「忘れてなんかないわよ。あれは、その、演技よ!」

「ほう、俺には本気で怒っているように思えたが」

「あんたこそ怒っていたじゃない」

「怒っているはずがないだろう。貴様程度の小娘に」

「はぁあああ?」

「なんだ、やるのか?」

「あのーそろそろ行かない?」


 スケープの言葉が入り、二人は怒るに怒れなくなり、已む無く歩き始めることにした。

 それから一日、盗賊の襲撃は数知れず。毎回毎回撃破していくが、それは二人の喧嘩の余波による副次的結果だった、というのは言うまでもないことだろう。

 ただ、その状況に違和感を覚えないミネアではなかった。


「(盗賊の襲撃回数が多すぎるわね。今回の王族の動きを知っている、とは考えがたいし……それに、狙い打ったように来すぎだわ。これじゃ、まるであたし達の場所を知っているみたいじゃ)」


 疑惑の第一矢は当然ながらスケープに向く。

 だが、スケープの表情は普通そのもの。もしも内通者であれば、この状況に焦りを覚え、逃げることすら考慮するだろう。

 ともなれば白か、とミネアは振り出しに戻って思考を巡らせる。

 対してガムラオルス。彼の場合は初めからスケープに対して嫌悪感を抱いていただけあり、多少の論理的な考えを放擲し、彼女を疑った。

 そうして歩き進めると、壮絶な光景が目の前に広がる。


「これ……罠よね」

「ああ、俺にはそう見える。が、大したことではない」


 彼らの目の前には、数百人の盗賊達が立ちふさがっている。それどころか、後方からもそれと同等の数が迫っていた。


「(正面突破しかない、ってわけね。さて、どうしたものかしら)」

「今回は黙ってみていろ」

「ええ、今回は譲ってあげるわ。さ、早くあいつらを消してきなさい」

「命令するな、決めるのは俺だ」

「一応言っておくわ。自衛はさせてもらうから」

「……フッ、勝手にしろ」


 そう言い、ガムラオルスは前に、ミネアは背後の敵に向かって走り出した。

 数でいえば圧倒的な不利。しかし、二人は《選ばれし三柱(トリニティア)》なのだ。

 ガムラオルスの両肩より放たれる光線は敵をなぎ払っていき、それをかいくぐった者は本人の体術によって倒されてゆく。

 対して、反対の方ではミネアが鬼のように術を放っていた。


「《火ノ九十九番・火山(ヴォルケーノミサイル)》」


 空から無数の火山弾が放たれ、広域殲滅が行われる。こうなれば、対処できる人間は限られるのだ。

 近接戦ならばと迫ってくる者もいるが、そもそも有効射程にまで踏みいることができない。下級術ならば、それこそすぐにでも用意できるのだから。

 敵を全滅させ、ミネアは挑発するような視線をガムラオルスに送る。

 彼はまだ戦っている。戦闘力でいえば十分なのだが、単純な範囲攻撃の不足という感は否めなかった。


「どう、手伝ってほしい?」

「不要だ!」


 光線で敵を吹き飛ばし、鋭い突きで奪命する。圧倒的な力に恐れをなす者もいたが、それでも退く気配はなかった。


「なるほど、これが巫女の実力か。護衛もなかなかに強い」


 その言葉が聞こえた時点で、ガムラオルスは手を止める。盗賊達も、同様に静かになった。

 人の海を裂き、白髪交じりの赤茶色髪の中年男が現れる。服装は貴族のそれように豪奢。だが、動物の骨類をアクセサリーを身に纏っており、野蛮さが見て取れる。

 視線は鋭く、人相も途轍もなく悪かった。


「俺は盗賊ギルドのボス、ストラウブだ。貴様等の実力は見せてもらった」

「ほう、ボスか。ならば……貴様を始末すればいいんだな」

「急くな。俺としては貴様等に勝てる見込みがないと分かった。この砂漠を抜けるまで、手を出さないことを約束しよう」

「(盗賊らしくない交渉ね……罠?)」


 怪訝そうな顔をするミネアとは対照的に、ガムラオルスは明確な敵意を向けていた。


「見逃すと思うか?」

「見逃さぬというのであれば、こちらも生存を賭けて戦うことになる。数千という相手を前に、今と同じようなことができるか?」


 盗賊の練度は高くない為、ミネア一人で殲滅することは難しくない。ただ、それは飽くまでも可能、という話だ。


「攻撃しない、という証拠は?」ミネアは問う。

「貴様等の目的地まで護衛とし、現在生存している盗賊をつけよう。武器は全てここにおいていく」

「暗器があれば関係ないな」 

「ならば、素裸に剥いていくか? 俺はそれでも構わない」


 このやりとりで、本当に投了しているのだと気づく。気づいたからには、ミネアとしても無用な争いを避ける方向に動いた方が無難だ。


「分かったわ。でも、同伴はいらない。次に襲ってきたら……」

「承知している」


 そうしてミネアは盗賊との示談を済ませ、旅路に戻ろうとする。


「待て、奴らを見逃すつもりか?」

「ええ、戦えば無駄に消耗するだけよ。疲れるのはごめんよ」

「甘えたことを」


 ミネアは唖然としていたスケープを指さした。


「護衛対象がいる状況で大規模戦闘は避けたいのよ。そういうことは覚えておくことね、本当ならあんたがあたしを守る予定だったんだから」

「是とはしていないがな」


 肩をすくめ、ミネアはスケープの顔を見る。


「平気?」

「ちょっと驚いたね」

「ま、もう襲ってこないと思うわ。目的地まで後少し、歩ききりましょ」


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