表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
147/1603

4

 いくつかの村や町を経由し、六日目となったある日、ガムラオルスは気づく。


「視線を感じないか?」

「……ええ。それよりも、魔力の方が気になるわね」


 感覚が優れているガムラオルスと、魔力の探知を得意としているミネアで答えは違っていた。しかし、内容は同じ。


「俺が接近して始末する」

「いえ、あたしが動いたほうが早いわ」


 二人はしばらく黙った後、ミネアが先制する形でガムラオルスの胸倉──身長的に鳩尾部分になっているが──を掴み、睨み付ける。


「あ、た、し!」

「俺だ。小娘は黙ってみていろ」

「……もしかして、あたしが姫だから気を遣っているの?」


 ここで肯定すれば全てが解決したのだが、ガムラオルスは何も隠さなかった。


「なんのことだ? 俺は魔轟風に抗う愚か者を始末したいだけだ」

「それはこっちのセリフよ! あたしに喧嘩を打ってくるような奴は焼き殺すわ」

「いや、俺がやる」

「あたし!」

「俺だ!」

「あたしよ!」


 言い争いを続けていると、不審そうな視線を向けながら一人の女性が近づいてきた。


「旅の途中に喧嘩?」

「あ?」

「なによあんた」


 激怒中だからか、二人とも初対面だというのに威嚇する。


「そういうのは良くないと思うよ」


 先に冷静さを取り戻したミネアは咳払いをすると、早速弁解に入った。


「ま、そうね。あたしが子供だったわ」

「いまさら自覚したか? 愚かしい小娘だ」

「だ、か、ら! なんであんたはそんなに偉そうなのよ!」


 いがみ合う二人に呆れたのか、女性は背負っていた背嚢から二つの水筒を取り出した。


「どうぞ。これでも飲んで落ち着いて」


 言われて初めて、二人とも喉が渇き始めていることに気づく。


「フッ、いいだろう。この魔轟風に選ばれた俺が飲んでやろう」

「ありがとう。みっともないところみせて悪いわね……」


 途端、ミネアは再度冷静になり、飲むのを躊躇った。


「(さっきの視線、魔力はこの人の? だとしたら……この中に毒が──)」


 ガムラオルスに注意しようとした時、彼は既に飲み始めていた。


「ふむ、なかなかにいける」

「え……毒とか入っていないのかしら?」

「臭いの時点で毒は入っていないことは分かる。味で確定だ」


 《風の一族》は人類種の範囲ながらも、明らかに人間を越えた能力を持っている。だからこそ、毒物検知能力も高いのだ。


「毒なんていれてないよ」

「そ、そう……悪かったわね。さっきから変な視線を感じていて」


 そう言いながらミネアは水筒に入っていた液体を飲む。

 口の中に広がる芳醇な果実の味わい、かつて王宮で儀式の際に飲んだそれを思い出し、ミネアは言い当てるように女性に告げる。


「これ、ワインね」

「ブドウジュース。発酵はしていないのでアルコールもないけど」


 少し当てが外れ、ミネアは頬を赤くしながらも美味な葡萄飲料を飲み干した。

 二人が飲み終えたと確認するや否や、女性は口許を歪める。


「(まさか、遅効性の毒!?)」


 女性はミネアに近づくと、逆さにした手を伸ばしてきた。


「御代をちょうだい」

「え」

「ブドウジュース二杯分。銀貨一枚で」


 唖然としながら、ミネアは自分の格好を検める。特別な用件できていることもあり、今回は王族としての服装なのだ。


「(なるほどね、王族にぼったくろうとしていたわけね……ま、いいけど)」


 敵対者ではないと安心し、ミネアは懐に付けていた皮袋から金貨を取り出し、女性に投げる。


「美味しかったわ。チップも付けておいたわ」

「どうも」

 

 そう言うと、女性はその場を離れていこうとした。


「待て」


 ガムラオルスの制止に応え、女は動きを止める。


「なにか?」

「お前──聖なる風の者だな」


 またか、とミネアは飽きれ返った。

 何かに気づいたかもしれない、と一瞬でも勘違いした自分を恥じながらも、ガムラオルスの腹に一発を叩き込む。


「何言ってんのよ」

「隠しても無駄だ。魔轟風は貴様を忌み嫌っている」


 そこで改めて、ミネアは女性の姿を確認した。

 十四歳程度と思われる、まだ若い──それこそ少女と言われてもおかしくない女性。プロポーションは顔とは対照的。年不相応にグラマラスだ。

 髪は明るい紫色の短めポニーテール。瞳は紅色。肌は太陽光を浴びていないかのように真っ白。風属性を思わせる身体的容姿は持ち合わせていない。

 服装は雷の国で流通している紺色のスーツ。行商人しては珍しい格好であることは否めない。


「良く分からないかな。あなた達はこれからどこに行くの?」


 未だ不機嫌なガムラオルスを放置し、ミネアが引き継ぐ。


「火の国の国境沿いにあるメルトよ」

「そう。ワタシもそこに行く予定なんだけど……ご一緒してもいい?」

「別に嫌ってわけじゃないけど、なんで?」

「盗賊に絡まれたら面倒だからね。あなた達からは強い魔力を感じるから、ジュースで恩を売ればタダで用心棒にできると思ったの」


 金を払わせておいて、その上で恩を売るのはどうなのだろうか、とミネアは思っていた。


「いいわ。つれていってあげるわ。名前は?」

「ありがとう。スケープよ」

「聖なる風の者よ、助平心を出した時は容赦しない。覚えておけ」

「あら、あんたにしては以外と素直じゃない」


 ガムラオルスは何も答えず、先んじて歩き始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ