5β
「それで、あんたの名前は?」
「俺は魔轟風の使い手、ガムラオルスだ」
「あたしはさっきも言ったとおり、ミネア。この国の姫で、一番弟子」
ヴェルギンの御前で自己紹介を終え、嫌々に両者は握手をする。
「これで弟子同士の交流は終わりじゃな。それでミネア、試してみてどうじゃった」
「そうですね、あの最後の光線はびっくりした、くらいですかね。体技は身体能力のゴリ押しでしかありません」
「まぁ、ワシと同じ評価じゃな」
ガムラオルスの体術、その最大の弱点は圧倒的なまでのフェイント不足だ。
彼の場合、一族でも屈指の肉体を持っていたからこそ、そうした小手先の技を必要としなかった。
そもそも、《風の一族》自体が真っ正面から相手を打ち倒すことを是としているのだから、それも致し方ない。
外界では術を多様し、それに対抗する為に近接使いは一つの技を極め、さらに術者を欺くような手を打つ。そこまでして、ようやく並び立てるのだ。
「とりあえず、しばらくは技巧を学ぶがいい。そして、学びながらも神器の力を高めるんじゃ」
「神器の、力……」
「そう、ヌシの持つ神器は本来、飛行を可能とする神器じゃ。戦いにおいて、相手の頭上を取るのは最大級のアドバンテージ。飛べるようになれば、ヌシの実力は格段に上昇するじゃろうな」
飛行という考えがまったくなかったからか、ガムラオルスは驚いた。
「面白い、空をも俺の支配圏になるわけか」
「そう簡単じゃないがのぉ」
ヴェルギンの懸念を気に留めることもなく、ガムラオルスはすぐに家の外に出て、飛行訓練を始めた。
「(地面に向かって光線を放ち、その反動で自分を空へと打ち上げる、か)」
頭の中で想像を固め、ガムラオルスは神器を起動させた。
刹那、一対の緑色光線が一直線に伸びていき、その頂点にあるガムラオルスの体は空高くへと上っていく。
みるだけでは飛行なのだが、本人にそのような余裕はなかった。
「(この圧力……動けないっ)」
急激に叩き上げられたことによりガムラオルスの骨は軋みを上げ、上昇していく最中には上下からくる凄まじい圧力に潰され、身動きを取ることもできなかった。
光線を解除した途端、それらの圧迫感は消え失せるが、彼の体は空に留まる力を失い、急速に落下していく。
天性の直感で降下の瞬間に光線を吐き出させ、衝撃を緩和させた。それにより、一撃で死亡、もしくは大怪我の回避に成功する。
「(こんなもので飛翔しろだと!? いくら《風の一族》でもこれは……)」
「ま、こんなことじゃろうと思っとったがのぉ……」
近づいてきたヴェルギンは睨み付けるようにガムラオルスの両肩を見た。
「飛翔は簡単ではない、ヒントくらいはくれてやろう。じゃが、教えるのはそこまでじゃ」
これが数ヶ月前のこと。ここから幾多のヒントを貰いながらも、ガムラオルスは最後の部分で躓き続けていた。
とはいっても、今の状況に至ったのは一月程度。そこからはヒントも出されなくなり、自分で模索するほかなくなった。
自分に何が不足しているのか、彼は結局分からなかったのだ。




