2β
「もう終わりかのぉ」
「……貴様、何者だ」
「ヴェルギン、この国の顧問を務めておる」
ガムラオルスはヴェルギンに圧倒されていた。《翔魂翼》は自在に制御できない為に使われていないが、相手も術は使っていない。
純粋な体技において《風の一族》を上回る存在。ガムラオルスは自身の酔いを脇に押しやり、真剣な表情で睨んでいた。
「この程度で傭兵とは片腹痛いのぉ。こんな爺一人、それも術すら使わせないとは」
「ほざけ!」
瞬間的に距離を縮め、凄まじい跳躍で壁の高い位置に到達し、そこから壁蹴りでヴェルギンの側面へと急接近して行く。
落下と蹴りによる加速、二重の加速によって強化された飛び蹴りが、これまた途轍もない速度で放たれた。
だが、ヴェルギンはそれを回避すらせず、掠る程度に命中させて自身の体ごと回転させて受け流す。
勢いをそのままにガムラオルスは地面へと向かうが、素早く拳を打ち込んで減速し、靴で滑りながら擦り傷などを負わずに着地した。
「手加減なぞいらん。先ほど見せた力、ワシに試してみるといい」
体術で勝てないことが明らかになった以上、それは必然だった。言われるまでもない。
ガムラオルスが両肩より光を放った瞬間、ヴェルギンは包帯を巻いた手を伸ばした。
緑色の光線が触れると同時に包帯は焼かれていき、銀色の手甲が姿を表す。
その手甲と光線が衝突した途端、緑色の光は完全に停止し、ヴェルギンの拳打だけで砕かれてしまった。
「なっ……」
「ヌシの実力は分かった。言葉を借りるのであれば、雑兵を狩る程度の力ということじゃな」
「今日は魔轟風の力が弱かっただけだ」
「……言い訳をするのは若さじゃ。だが、もしも強くなりたいというのであれば、力を貸さんでもない」
「どういうつもりだ」
「気づかぬか? ワシの手甲、これも神器じゃよ──オヌシと同じ、な」
それを言われた途端、ガムラオルスは自身の敗北の理由を悟った。
「俺と同じ、ただの人間ではない者か」
「二つの意味で、そうじゃな」
二つ、の片方が分からずにガムラオルスは困惑する。
「傭兵はナシじゃ。ただ、ワシの弟子として迎え入れてやるだけ──もちろん、代金の代わりに貸しをつけさせてもらうがのぉ」
「貸し、だと?」
「そうじゃ。具体的には──うむ、火の国への奉仕じゃ。人手が足りない時には、オヌシに仕事を任せることもある」
「フッ、悪くない」
それこそまさに傭兵──多少は形が違うが──だと、この提案に満足したガムラオルスはキザな仕草で手を差し出した。
「あんたの弟子になってやる」
「そうか、ワシの弟子に──ならば、もう身内じゃな」
敵対者から中立へ、中立から身内へ、この三段階目の変化でヴェルギンは豹変する。
拳が飛び、ガムラオルスを吹っ飛ばした。《風の一族》の反射神経ならば見切ることも可能だったが、今の一撃は事前に飛ばされた威圧により、回避行動を封じられていた。
「ぐっ……」
「弟子になったからには、礼儀を弁えろ! ワシのことは師匠と呼べ、分かったな」




