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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
142/1603

3

 ミネアが寝静まった夜中、少し離れた場所──ミネアを観察できる範囲──に行き、《翔魂翼》によるエネルギー放出を行う。

 攻撃性の光を飛ばす程度ならば容易。かなり低出力ですら物理攻撃力を帯び、軽く仰け反る程度の出力で殺傷性を得る。

 飛行するとなれば、それ以上の出力を放出しなければならないのだ。ついでにいえば、飛んでいる間はそれを継続する必要がある。

 一度呼吸し、ガムラオルスは地面に向かって緑色の光を放った。

 砂が吹き飛び、ガムラオルスの体が宙に投げ飛ばされる。両肩から光は放たれ続け、ガムラオルスは飛んだ。

 見ている限りは飛んでいるガムラオルスだが、本人は全く異なったものを見ている。


「(制御……できない、か)」


 ガムラオルスはただ吹っ飛ばされているだけ。今もなお、制御はできておらず、左右不揃いな光の出力によって凄まじい圧迫感を覚えていた。

 降りるべく出力を落とした瞬間、急に光が途切れ、一気に降下していく。

 咄嗟に光を再噴射して落下の勢いを削いだものの、完全着地ができるわけでもなく、転げ落ちるような形で地面に墜落した。



「(どうすれば安定するのかが見えない。だからか、出力もこれが限界だ。クソ、魔轟風に選ばれた俺すらも弄ぶとはな)」


 制御できない恐怖からか、ガムラオルスの最高速度は《翔魂翼》の仕様から考えて、半分程度で抑えられている。


「寝ている最中に騒がないでくれない?」


 声に振り返ると、不満そうな顔をしているミネアが立っていた。


「小娘か……これは師から与えられし試練だ。貴様の関与するところではない」

「姫の眠りを阻害するつもり?」

「それこそ、俺の知るところではないな」


 嫌みの言い合いをし終えると、ミネアは振り返り、ただ一言だけ呟く。


「もう一回吹っ飛びなさい」

「俺は飛翔している」

「あのへなちょこで飛んでいるつもりなの? ハッ、笑わせるわね、ならもっかい飛んで見せなさいよ。あたしが見ていてあげるから」


 成功した経験こそなくとも、ミネアを見返してやりたいという意識から、ガムラオルスは煽りに応じる。

 意識的に出力を制限しながら、ゆっくりと浮上していった。いつもと同じ方法では失敗すると判断しての、慎重な行動。

 ただ、僅かに浮き上がった途端に大きくガムラオルスの体が傾き、拳を突き出す反動でどうにか体勢を維持した。

「どうだ」

「何よ、飛ばないの?」ミネアは半笑い気味に言う。

「クッ……いいだろう、俺の力を見せてやろう!」


 ガムラオルスがさらに出力を上昇していくと、子供一人分の高さにまで到達した。しかし、ここまでくると反動やらで姿勢制御ができる次元を越える。

 放たれる光は背側から放たれているのだ。その必然性から、ガムラオルスは前のめりになる。

 先ほどは反動だけでそれを持ち直したが、今回は飛翔を可能とする出力なだけにそれだけでは押し返せなかった。

 空中で転倒したガムラオルスはそのまま墜落し、顔面から地面に叩き付けられる。《風の一族》のように頑丈な人間でなければ、治療不可避の事故だろう。


「ハッ、飛べないじゃない」

「夜は魔轟風が支配する時間だ。俺ほどの実力者だとしても、風の重圧を壊せないだけだ」


 おかしな者を相手にするように、ミネアはわけが分からないという仕草をしてみせ、背を向けた。


「……まずは姿勢制御ね。あと、左右から放たれる力の量もバラバラだったわ」

「何のつもりだ」

「お姫様は静かな夜が御所望よ。さっさと済ませなさい」


 それだけ告げると、ミネアは元のベースキャンプ──焚き火しかないが──へと戻っていき、寝袋に頭まで突っ込んだ。


「(余計なお世話だ)」


 言葉には出さず、ガムラオルスは低出力で浮上し、その状態での姿勢維持の練習から始める。


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