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「準備はできたかしら?」
ミネアは背負える限りの大きな背嚢を背負い、食料や水、寝袋などの数日を過ごせる装備を入れていた。
「ああ」
「ああって……その荷物で行くつもりなの?」
「無論だ」
その奇妙な出で立ちを崩さないようにか、ガムラオルスは腰に目立たないポーチをつけている程度で、荷物らしい荷物を持っていない。
「ねぇ、本当にいいのかしら」
「構わない」
「……あんたが飲まず食わず、寝るときも地面に寝っ転がるなら文句は言わないわ。もちろん、死にかけても、死んでも荷物は渡さないから」
そこまで言われ、ガムラオルスは渋い顔をした。
「近くの村で補給していけばいい」
「……ええ、ならいいわ。言ってあげる。あんたは荷物を持ちなさい、これ命令」
「いらぬ世話だ」
「世話じゃない、あたしが持っている荷物じゃ移動最中に不足するわ。だから、あんたはあたしの荷物も含めて持つの、わかる?」
「くだらない話だ」
「じゃ師匠に言うわ」
「……仕方がない。俺の慈悲に感謝するがいい」
「はいはい」
かなり面倒な手順を踏み、ガムラオルスの荷物は新たに追加される。もちろん、出発の予定を遅らせられない為か、ミネアもその手伝いに参加した。
水や食料が三人を数日養える程度用意され、ガムラオルス用の寝袋も一つ手配された。言うだけならばこの程度だが、それがどれほど重いかは言うまでもない。
黒いマントは当然といわんばかりにおいていくことになり、彼の背には行商人のそれを思わせる、横幅二人から三人分程のバックパックが位置取る。
マントがなくなったからか、彼の両肩に当たる部分に装備された肩当ての姿が露になった。
ブイの字型をした部分が左右の肩当を繋いでいる。それは胸部側と背面の両側にあるらしく、被るような形で身に纏うのだと容易に判断させた。
全身鎧を思わせる肩部分には、丸みを帯びた大きめの緑宝玉が埋め込まれている。宝石を除く部分は鉄のような鈍色をしていた。
これこそが《風の太陽》ガムラオルスの神器、《翔魂翼》だ。
「厄介な枷だな……これでは俺の魔剣を容易には振れない、試練の一つか」
「武器はいらないわ。なにが起きてもあたしが手を打つから。数が多ければあんたも戦う、その程度よ。武器が必要になる場面はないわね」
「後悔するなよ」
「昨日の内に済ませたわ」
二人はヴェルギンの家を発ち、水の国と火の国の国境沿いまで向かうこととなった。
移動は徒歩。これには理由があり、具体的に言えば、目的地に馬車が入れない──その町で調教された馬でなければ出入りができないそうだ──ことになっているからだ。
手前で降りることも可能ではあるが、そもそもそれは前提段階で崩れている。
当初は兵を伴って移動するはずだっただけに、馬車の手配はされていない。
そこにヴェルギンが私情でガムラオルスを回したものだから、馬車で行けばいいではないか、となっただけの話だ。
徒歩に関してガムラオルスもミネアも文句は言わない。二人とも、そうしたことを大した問題だとも思っていないのだ。
かくして、一日二日は特に話すこともなく、ただひたすらに歩き続けた。
一つ目の村についてからは、ガムラオルスがいつものように痛々しい発言をし、村人を驚かせる。それを、ミネアが体罰で諫めていた。
村で消費分の水や食料を補給し、すぐに二人は村を出発する。
ただ、普通の旅に思えていたのはミネアだけで、ガムラオルスはかなり命賭けではあった。




