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翌日、大聖堂にて葬儀が開かれた。
エルフであるスカーレちゃん、そして管理官であるクラークの葬儀。
夢幻王との関係性については不明だったこともあり、表向きには侵入者ではないという体で話を進めている。当然、事件を知る者にも口外しないように言った。
祭壇で祈りを終え、黒ずきんを被ったアルマちゃんが隣の席に戻ってきた。
「アルマちゃん、ごめん。スカーレちゃんを守れなかった」
「……エルフの技法を使われたんだよね?」
俺は無言で頷く。
「たぶん、スカーレちゃんは善大王さんに助けてもらって、嬉しかったんだと思うよ。じゃなきゃ、技法なんて使わないもん」
「だが……俺は――」
「こんな風に可哀想なことが起こらないように、善大王さんが頑張ってくれれば、きっとスカーレちゃんも喜んでくれるよ」
「そう、かな……うん、ありがとう」
スカーレちゃんの死を悲しむ一方、俺は一つの気掛かりを持っていた。
それは何日にも渡って俺の頭の中に残り続け、疑惑を広げていく。
執務室で仕事をしていたある日、突如としてシナヴァリアが話しかけてきた。
「善大王様? どうかしましたか?」
「……シナヴァリアか。いや、夢幻王が気になってな」
「この前の、クラークの一件ですか?」
「ああ、あいつは夢幻王の名前を出していた。それがどういう意味かは分からないが」
夢幻王が皇になったのは俺と同時期のはず。だとすればそんなに時間は経っていない――だとすればおかしい。クラークが光の国に入ったのは数年前だ。
夢幻王は現夢幻王ではなく、先代のことを指しているのか? いや、だとすれば変わったことくらい知っているはずだ。
奴は一体誰に忠義を誓っていたんだ。
答えは見つからず、俺は悩み続けながらも、書類を処理していく。
「善大王様、《風の大山脈》についてはいかがなさいますか?」
「……そろそろ着手すべきか。闇の国の対処についても同じだ、聖堂騎士に命令を出しておいてくれ」
「分かりました」
そこで言葉を切ると、シナヴァリアは俺の顔を見てくる。「本当に、お一人で行くのですか?」
「こちらが武力を持っていくと警戒してしまうだろ? だから、俺一人で平和的な解決をしに行く」
「彼等がそれで納得するとは思えませんが。十中八九、話すら聞きいれられないと思います」
《風の一族》だけあり、シナヴァリアは必要以上に心配しているようだ。宰相として俺の身を案じているとも思えるが、ビフレスト王に宣誓した後になかったことには出来ない。
「それでも行く。この領地問題を解決できれば、善大王としての信頼も増す」
「……そこまで言うのであれば。幾つかのことを教えておきましょう」
シナヴァリアは筆を取り、紙にすらすらと図面を書いていく。
「族長の名はウィンダート、その真名を知っていると言えば案内されることでしょう。そして、この地図通りに進めば里に進めるはずです」
「真名? 偽の名前でもあるのか?」
「《風の大山脈》に住む人間は真名を隠しているのですよ。特に、外界の人間には」
「……ということは、シナヴァリアって名前も偽名なのか?」
シナヴァリアはそれ以上答えず、「あまり無理をなさらないように」とだけ言い残して部屋を出ていった。
《風の大山脈》……か。行くしかないよな。