飛ぶ鳥と跳ぶ鳥
「俺がこの小娘と!?」
「誰が小娘よ!」
肩に掛かるまで伸ばした緑色の長髪が特徴的な少年は、短めの赤いツインテールとアホ毛が印象的な幼い少女に殴られた。
「貴様っ……この《魔轟風》の使い手である俺にッ」
「なにが魔轟風よ。馬鹿じゃない?」
言い合う二人を身かね、褐色肌で筋肉質な禿頭の男は呆れ果てながらも、二人の真ん中に立つ。
「喧嘩をするでない! ミネア、お前は姫じゃ、いくら実力があるとはいえ、一人で他国に赴いては火の国の国力が疑われかねない」
ミネアはヴェルギンにそう言われ、俯いた。
「フッ、他愛ない」
「お前もじゃ! ガムラオルス、お前にはタダで修行をつけてやっておるんじゃ、火の国の為に少なからずは働いてもらわんと割に合わん!」
「そ、そうですが……ではなく、そうだな。我が力を究極に高めんとする師の頼みともあれば、この魔轟風を一勢力に預けるという禁忌すら、破ってみせようぞ」
「師匠……本当に、こんなの連れて行かなきゃいけないんですか? 国力の不安よりも、こんな変人をつれていった方が、悪い噂が立ちそうですが……」
「態度こそはアレじゃが、火の国で自由に扱える最高戦力じゃ。いやというのであれば、一、二中隊をつけることになるが? 移動ももちろん、その者等を考えて長期的に行う」
示威行為としての側面を含めた、軍事行進のようなことをやる、とヴェルギンは言っていた。
「はいはい、わかりましたよ! この変人を連れていきますよ!」
「連れて行く、だと? 笑わせるな、この魔轟風の囁きを聞き分けられる俺は、誰にも縛られない! 小娘に付き従うのではなく、師への義理と考えてもらおうか」
「あーもう面倒くさい! なんでこんなことになったのよぉ……」
いつもは気丈なミネアだが、ガムラオルスの止むことなき痛々しい発言に苛立ち、そして疲れ果てている。
「ガムラオルス」
「はい、師匠」
机に突っ伏すミネアを余所に、ヴェルギンはガムラオルスを近くへ呼び寄せた。
「闘者たるもの、仕事をこなしながらも己を高めなければならない。わかるな? ヌシにはこの任務終了までの課題を与える」
「どのような課題だ? 如何なる難関で困難な試練であろうとも、小娘の子守を行いながらに果たすつもりだが」
酔ったような──もちろん自分に──口調で話した途端、ヴェルギンは怒りを見せた。しかし、こればかりはどうしようもないと、諦めたようにニュートラルな表情に戻す。
「課題は簡単じゃ。《翔魂翼》による飛行の会得、完全とはいえないにしても、実戦で運用できる程度にはしておくんじゃぞ」
「そ、それは……非常に困難かと思われますが……」
困難と分かり切っているからか、ガムラオルスの態度は明らかに萎縮していた。痛々しい発言や、演技掛かった様子もなりを潜めている。
「ワシは基本を教えたつもりじゃ。後は、ヌシが本気で取り組めばいい。なにも無理を言っているつもりはない、見込みが正しければ数日でも体得することは可能じゃな」
「今回はどの程度の時間がありますか?」
「そうじゃな……移動も含めて二週間あればいいところかのぉ。早ければ一週間じゃな」
ガムラオルスは唖然としていたが、話すことは終えたとばかりにヴェルギンは家の外に出ていった。
「出発は明日よ。準備を済ませておきなさい……」
「……ああ」
飛行能力の獲得、それはヴェルギンの元に訪れ、初めに定められた目標だった。
そう、それは今から数ヶ月前のこと……。




