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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
137/1603

8

 実技時間中、フィアは奇妙な魔力の動きを感じながらも、特に気にせずに持ち場についた。


「おい、見てろよ。今から邪魔してやるから」と男子生徒。

「先生にばれないか?」

「大丈夫、バレても問題ねぇよ」


 フィアの見せた詠唱放棄は、良くも悪くも悪知恵を与える結果になる。

 攻撃軌道上に誰もいないことを確認し、男子生徒は術を発動した。


「あっ、わりぃ! うっかりそっちに──」


 首筋の傍を橙色の光線が掠り、男子生徒は腰を抜かした。

 光線は後ろから飛んできた。フィアの側からは飛んできていない。

 そのまま光線はフィアに迫っている光弾を消滅させ、元々のターゲットとされていた的も打ち抜いた。

 全てを一直線上に行う。巫女だからこそできる、卓越した術の制御だった。


「先生、ごめんなさい。出現場所を間違えちゃった」

「そう、ですか。できれば気を付けてくださいね」


 フィアならば意図してそれを行えるかもしれない、そう気づき、生徒の大半は震え上がっていた。

 同級生は関与しないにしても、妨害を行おうとしていた生徒の言葉は聞こえている。彼のような真似をすればどうなるか、という威嚇行為として示された。

 事実、フィアもそれを想定していた。これで全てが解決すると。

 ただ、そんな全てがうまくいくわけもなく、翌日にはフィアがその男子生徒に呼び出された。


「誰?」

「彼の友達さ。お互いの父さんが知り合いでね、俺としてはこの子は弟みたいなものだ」


 高身長の金髪男。フィアよりも年上であり、具体的に言えば、彼は高等部の生徒だ。

 その男の傍に立っていたのは、フィアにちょっかいを出そうとした男子生徒。


「僕にあんなことをするから悪いんだ! 頼むよ、こいつを叩きのめしてよ」

「ああ、構わない。高等部の術者科でトップクラスの俺が出るまでもない気はするけど、弟分の頼みとあっては断れない」

「三文芝居ね。見ていて楽しくないから帰っていいかしら?」

「なぁ、俺は貴族だ。君みたいなレディに傷を負わせるような真似はしたくない。どうだろう、頭を地面に擦りつけて謝るなら、不問にしてもいい」

「なっ、話が違うじゃないか!」

「俺の顔に泥を塗らないでくれ。貴族は面子が大事だ、直接的な暴力なんてたいした意味はない」


 二人の話を聞いて、フィアは帰ろうとした。


「待て! 謝らないのか?」金髪男は言う。

「ええ、当たり前じゃない」

「謝れば許してやる、そう言っているんだぞ? これは寛大な処置だ。それだけで全てを水に流してやろうと言っているんだ」

「だから、そういうの面倒くさいの。貴族の都合なんて、本当にどうでもいい」


 これには金髪男も黙ってはいられず、フィアを睨みつけた。


「貴族は面子と言っただろ? 君はどうやら、礼儀を弁えていないみたいだ」


 《魔導式》が展開される。規模は百番台、術者科のトップクラスというのもあながち嘘ではないようだ。


「(速度はまぁまぁ、十分殺傷性がある威力ね。そこらへんの術者よりはよっぽど強いかも)」


 軽く評価をし、フィアは《魔導式》を展開する。


「顔だけは避けておいてやるよ。死なない程度で、この選択を後悔するんだな」

「早くして」

「ッくぅ……! 《光ノ百三十九番・光子弾(フォトン)》」


 金髪男は人差し指をフィアの足に向ける。それと同時に、指先から細い光の線が放たれた。

 フィアが地面を蹴った瞬間、橙色の光線が撃ちだされ、彼女に接触する寸前で衝突する。


「まぁまぁね。でも、ライトの方が上」


 光の線は凄まじい勢いで消滅していき、最終的には橙色の光線がその威力で勝った。


「なっ──上級術が下級術に!?」


 光線は地面を抉り、大きな石礫を二人組みに叩きつけた。

 その一撃で手足の骨がへし折れ、両名とも倒れこむ。


「もう、こういうことやめてくれないかしら? 私、ライトに心配してほしくないの」

「ラ、ライトって誰だ」と男子生徒。

「ねぇ、もうこういうことやめてくれないかしら? 私、ライトに心配してほしくないの……嫌われたくないの」


 フィアは繰り返す。その瞳はやはり、光が灯っていない。

 理性で金髪男は恐怖を覚えた。これは紛れもなく、人を殺せるような目だと判断できてしまったから。

 逆に、そうした理性を持たない男子生徒は恐れながらもふらふらと立ち上がり、「僕らの父さんが黙ってないぞ!」と虚勢を吐いた。


「じゃあ、ここで黙らせちゃってもいいわね」


 フィアが《魔導式》を展開したのを確認した途端、苦痛に歪めながらも金髪男は男子生徒の頭を掴み、地面に叩きつけた。

 その後、自分も跪き、フィアに平伏す。


「見逃してく──ほしい。もう手出しはさせない、父にもこのことは話さない。だから、見逃してくれ」

「……初めからそういえば良かったのに」


 二人を歯牙にもかけていないフィアはあっさりとその場を立ち去った。


「何であんなこと言ったんだよ! 父さんがいればあんな奴──」

「あの子は……人間が勝てる次元の存在じゃない。分かるんだ、いや、分かってしまった。俺は術者としてはまだ三流、それでも……あのような威力がどうやっても出せないことは分かっている」

「お前は役立たずだ! 父さんに言ってやるぞ!」

「そんなことをすれば、一族全員が、あの子に殺されるかもしれないぞ」


 それまで怒りに任せていた男子生徒も、鬼気迫る金髪男の言葉を聞き、ようやく事態の凄まじさを理解する。


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