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授業では明らかに初等部教育を外れた回答をし、実技では成人術者を上回る実力を軽々しく振るう。
最初こそ物珍しさと凄まじさに注目が行っていたフィアも、すぐに貴族的排他を受けることになった。
いくら子供とはいえ、ここの生徒は貴族として十分すぎるほどの自尊心を持っていた。
男子生徒からすれば、女子が自分を遙かに上回る術を使っていることが許せない、ということもあった。
ただ、始まりからいえばそこまで重篤ではなかった。
興味本位で挑んでくる男子生徒も多く、共通のライバルのような扱いを望む者が多かったからだ。
しかし、直接対決であっさり勝つ度に彼女の評判はガタ落ちしていき、クラスで最も優秀な生徒を打ち負かした暁には、あっという間に嫌われ者にまでランクアップしてしまった。
真っ当に、手加減してギリギリで勝利するようなパフォーマンスができれば、彼女は女子生徒の期待の星になっていたかもしれない。
ただ、フィアはそうした手加減を知らなかった。毎回毎回、圧倒的な実力差で負かし、心を折ってきた。
学園という小社会において、そんな真似をすればどうなるかは言うまでもない。
さし当たっては教本の落書き、実技での妨害、その他陰口など、陰湿な方法が取られた。
そこまでは普通。立ち回りの下手な生徒が至ってしまう境地で終わり。
「(うぅ、どうしよう。ライトにこんなことが気づかれたら、ちゃんとできてないと思われちゃうかも……)」
彼女の心配は明らかに別方向に向かっていた。
しばらく考え、フィアはひとつの答えに辿りつく。
心理透視で教本落書きの犯人をあぶり出し、その生徒を人のいない場所にまで呼びだして、直接問いつめたのだ。
「なんであんなことしたの?」
「俺達やってねーし」
「うん、知らないよ」
心を読めるフィアからすれば、嘘をついているのは明白だった。
すぐに《魔技》を発動させ、教本に残留していた魔力を数値化する。
「私以外の魔力はこの二つ。つまり、あなた達二人よ」
「なんだよそれ」
「知らない? 魔力を検知する《魔技》よ。嘘だと思うなら光の国にでも渡してみる? 同じ物が使われているから犯人は分かるわ」
《魔技》自体は授業でも教わっている為、二人もどういうことが行われているかは分かった。
ただ、知っている利用方法は簡単なものに限られ、このような物証を調べるような高度なものは知識の外にある。
「嘘つくなよ! それにな、俺達の父さんは光の国でも有名な貴族なんだぞ。お前みたいな女なんて、すぐに消せるんだからな」
「へぇ、そう。それでどうするの? こんなことをしなくなって、この事件も隠してくれるっていうなら許すけど」
フィアからすれば貴族程度は恐れるに足らなかった。
自分は天の国の姫であり、天の巫女であり、さらに善大王の彼女なのだから。
友達を作れていないという事実を隠すことが最優先、それ以外はどうでもよかったのだ。
「おい、こいつボコボコにしようぜ」
「二人ならどうにかできるだろ」
殴りかかってくるが、フィアは表情ひとつ変えない。
《魔導式》が瞬間的に展開され、地面を蹴りつけることで起動する。
橙色の光弾が地面に向かって放たれ、その余波だけで男子生徒二名は激しい勢いで壁に叩きつけられる。
「どうするの?」
既にフィアは《魔導式》の展開を始めていた。
その数は六つ。同時展開すら未知の技術だというのに、それを六つも同時で行っている時点でなにがなんだか分からなくなっていた。
答える間もなく、一発を発動させて再び壁に叩きつける。二人は地面に這い蹲った。
「私はライトに失望されたくないの。その為だったら、今ここであなた達を消すことも厭わないわ」
フィアの目に光は灯っていない。じとっとした目で、二人の同級生を人とすら見ていないように見下す。
恐怖に押され、二人の男子生徒は泣きながら謝罪し、頭を垂れた。
「(よし、これで一つ目の問題は解決かな)」




