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先刻の授業をみて、誰もがフィアがかなりの使い手だということを察していた。
この時期に登場した謎の転入生。教科書のどこにも書いていないような事実を知っている存在。
期待の目を向けられながらも、フィアは自分の順番を待っていた。
術の実技授業。自由練習というよりかは、特定の順列を指定された授業だ。
教師としてはフィアが唯一の天属性使いということは理解の上なので、光ノ二十番・光弾という名称は避けられた。
「《光ノ二十番・光弾》」
男子生徒が術を発動し、光弾が放たれる。だが、それはコントロールも定まらず、的にすら当たることなく途中で消え去った。
この年齢であれば、それもさほどおかしなことではない。
「先生、もう一回!」
「はい、どうぞ」
術の程度を確認し、フィアはまた落胆した。
「(なんで私がこんなお遊戯に参加しなきゃいけないんだろ)」
フィアは気づかれないように《魔導式》を展開し、天ノ十三番・天火を発動させて遊んでいた。
小さな火に制御し、指先を仄かに照らす。発火性があるが、フィアならばうっかりでも燃やすようなことはないだろう。
そうした遊びは意味がないわけではなく、生徒の実力を測る意味もあった。
順列差は七だが、それでもフィアは生徒の数倍という速度で《魔導式》を完成させていく。
たったの二十番にもかかわらず、フィアであれば中級の後半が可能という程に時間が掛かっていた。
苛立ち始めていたころ、教師から呼び声がかかった。
「ではフィアさん」
「……二十番台に近いと言うと、十九番だけど、大丈夫?」
確認を取るが、教師はその意味を理解できなかった。
「はい、大丈夫ですよ」
ここにきて、フィアは少し状況を理解し始めていた。具体的に言えば、他人と違ったことをなるべくしないようにし、前に倣えで動くべき、ということ。
足で地面を蹴る癖を抑えながら、《魔導式》の展開を開始する。
「フィアちゃんはどんなの使うんだろ──」と生徒の誰か。
「《天ノ十九番・空線》」
他の生徒の数倍速で《魔導式》を展開し、フィアは詠唱を用いて術を起動した。
空気を歪め、激しい熱を撒き散らしながら橙色の光線は直進し、前方に存在していた的を打ち抜いた。
攻撃力の低い光属性、それも練度の低い光ノ二十番・光弾程度では、的に焦げ目を付けるのが精一杯だった。
ただ、フィアに関してはそんな甘いものではない。むしろ、十九番はフィアにとって得意な術だった。
的は付け根から完全に蒸発し、その後ろの壁までもが貫かれていた。
誰もが驚嘆よりも先に驚愕し、唖然としていた。
ただ、それはすごい現象をみたからという単純な驚きであり、実はそこまで深くはない。
誰よりも異常を認知しているのは、教師側。術を知っているからこそ、下級術ではありえない威力に腰を抜かしかけていた。
「(あの威力、光属性なら上級術に相当してもおかしくない……これが、巫女!?)」
フィアは黙ったまま後ろに下がった。
教師も続く生徒を指定できず、生徒も驚きの余韻に浸っていた。




