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「フィア、です。よろしく……」
教室は静まり返っていた。だが、それは決して悪いことではない。
「(なにかしたかな? ちょっと怖いけど……)」
目を閉じ、フィアは適当に目を付けた生徒の心を覗いた。
「(すごい綺麗な子だぁ)」
すぐに目を開く。そして、フィアは教師に指示されるまま、後方の席に座った。
フィアは天の国の姫だ。歴代恵まれた容姿を持つとされるだけに、貴族達と比べてもさらに上の段階に彼女はいる。
物憂げなお姫様、誰もがそんなものを想像していた。
休み時間に入ると同時に、生徒達が一斉に押し寄せ、フィアに話をし始めていた。
「フィアちゃんって綺麗だね」
「あ、ありがと……」
「貴族なの? みたことない顔だけど」
「貴族だけど……別の国かな」
「こんな時期に入ってくるなんて珍しいね」
「ライトに言われたから……その、入ったの」
「ねね、僕とデートしようよ」
「えっと……私には、ライトがいるから──」
「今日はわたしとデートしてくれるっていったじゃない! フィアちゃん、気にしなくていいからね」
「……う、うん」
ごった返す人の海に包まれ、フィアは目を白黒させていた。
そうして授業が開始されるまでの時間、嵐のような時を過ごしたフィアだったが、教師の登場で急場をしのぐこととなった。
授業自体はとても単調なもので、フィアからすれば取るに足らないものだった。
ただ、それは飽くまでもフィアからすればという話。授業自体はレベルが高く、男子生徒はともかく、女子生徒は三割がついていけているという程度だった。
「(本当に退屈。こんなの、子供騙しよ)」
《導術》に関しての基礎理論の授業。十歳の学級といえば、術を使用できる者が半数を超え始める時期だ。
ただ、使えても二十番台程度が限度。フィアのように二百五十五番台まで使えるような化け物はいない。
「──ではフィアさん、術の順列についてお願いします」
話を聞いていなかったフィアだが、すぐに目を閉じ、教師の思考を覗く。答えは出てこないが、瞬時にどういう流れかを察した。
「《導術》は四段階に分かれていて、一から二十九までの下級術、三十から九十九までの中級術、百から二百四十九までの上級術、二百五十五の最上級術となっています」
そこで一度区切り、フィアは続ける。
「規模は順番に、一人を相手にできる術、複数人を相手にできる術、集団を相手にできる術、軍を相手にできる術となっています」
とりあえず答えられるものを答えた気になったフィアだが、教師はともかく周囲の生徒は驚いていた。
「よく、勉強していますね」
そこでフィアは感づき、教科書をめくって内容を改める。
書いてあるのは四段階に分かれていることくらいで、順列の指定すらされていない。さらにいえば、術の具体例すら載っていなかった。
フィアからすれば当たり前のことだが、ここにいる生徒はまったく知りえない情報。教師ですら、おそらく使えるのは中級程度──良くて上級の序盤程度だろう。
「(本当に子供騙し)」
とはいっても、この時点で術を専攻で学ぶ生徒というのは少ない。
貴族であるからして中等部、高等部になった時点で上級術を目指し始めこそするが、初等部では中級術の取得ですら高嶺の花なのだ。
この時点で学ぶべきは飽くまでも基礎だけ。フィアはそれを取り違えていた。




