2
「えっ、私が学園に?」
「どうせ暇だろ?」
フィアは頬を膨らませ、執務室のソファーに飛び込むと、顔を埋めた。
「子供なんかと勉強しても楽しくない」
「そうそう、そういう態度が問題なんだよ。お前は仮にも姫なんだから、少しは他人と関わろうとしろ」
「だって、私はライトだけいればいいんだもん」
善大王は呆れ、フィアの傍に寄る。
「昼は自室に篭って絵本を読み、夜は俺の部屋にやってきては勝手に寝る。それの繰り返しだ。堕落した生活だと思わないか?」
「天の国だとそれが当たり前だもん。その時は昼夜問わずに絵本読んでたけど」
良くない形とはいえ、自分の身を粉にして働いていたシアンを見て何も思わなかったのか、と善大王は思っていた。
「とりあえず朝と昼は学園にいけ。フィアに必要なのは人並みな感性だ」
「だってぇ……」
「ほら、もう制服も用意してあるし」
そう言うと、善大王は待ちわびていたとばかりに執務室の机の下から制服を取り出した。
金色のボタンがついた純白の制服。光属性の属性色でもある明るい黄色のスカート。白いタイツと黒のストラップシューズ。
「やだ!」
「この制服高いんだぞ! 貴族しか通わないからと馬鹿げた品質を平均化して、とんでもない値段になっている! フィアが今来ているエプロンドレスより何十倍高いか分からんレベルだ!」
それを言われて少し迷ったのか、フィアは拒否感を僅かに消した。
「でも……」
「夜は会いにきてもいいからさ。とりあえず朝と昼に活動するようにしてくれ」
「……うーん、うん」
渋々承諾したフィアを確認すると、善大王は意気揚々と立ち上がった。
「なら早速着替えてみよう。俺はフィアの制服姿が見てみたいな」
「えっ、うん……ライトがそういうなら」
フィアが着替えている最中、善大王は仕事に注力していた。覗けばすぐに気づけるという自信があるだけに、彼女も部屋に居ることを咎めたりはしない。
制服に身を包んだフィアは恥じらいを持ちながらも、善大王に問う。
「どうかな」
「うん、やはりいい」
善大王は満足げに頷くと、引き出しから紙を取り出す。
「入学届けは既に出しておいた。今日は教師陣に明日から向かうことを伝えておいた」
「えっ、いつのまに……って、勝手に!」
「ま、結果としてそうなったんだから問題ないな」
それに従うのは意図するところではなかったとはいえ、フィアとしても善大王がそこまで手回ししたことをひっくり返したくはなかった。
「でも、勉強なんて意味がないわ」
「初等部──いや、学園というのは人脈を手に入れ、交流を学ぶ場だ。それ以外なんて九割は無駄と考えていい。だから、フィアがいくら勉強ができても関係はないな」
「う、うん……」
なかなかに面倒そうな話に、フィアはいやそうな顔をしながらも頷いたた。
 




