フィアの学園生活
「あれ、善大王様だよ」
「わぁ、本当だ。かっこいいなぁ」
十歳程の女子生徒達は授業を後方で見学する善大王に目を向けていた。
このミスティルフォードでは集団教育機関は少ない。学を身に付けるにしても貴族が個人的に教師を用意し、そこで技術などを叩きこませるのだ。
古い時代には全国民向けの教育機関が存在した水の国でさえ、今では貴族限定にしている節がある。
平民ならば職に必要なことを現技術者から学べばいいので、汎用知識を学習をする必要がないのだ。
さて、この光の国の学園の立ち位置はというと、貴族限定というところは変わらない。ただ、水の国と比べて歴史が長いことも事実だ。
「(なかなかに可愛い子が多いな。できるものならば遊んでみたいところだ)」
白い法衣に身を包んだ荘厳な男が、まさかそんなことを考えているなど、誰も予想できないだろう。
広い教室、机などが階段状に置かれ、教師を見下す形になっている。つまるところ、善大王は最上位の位置に立っているのだ。
少しして教室の扉付近に寄った善大王は確認するように廊下側を見た。
そこでは、気ににしているように教室内を覗きこむフィアの姿がある。
「(どうだ? 感想とかあるか?)」
「(……子供騙しって感じ)」
二人は思考で会話していた。片や神から与えられし力で、もう片方は明らかに人間離れした観察能力で、という異常な光景だ。
「(貴族や専門家、学者を育成、選別する機関だ。子供騙しって程じゃない。ただ、初等部は確かに踏み込んではいないな)」
初等部は学問を学ぶというよりかは、交流や人脈を作る場としての性格が強い。
貴族同士面識が多い者はいるが、学園生活でのそれと公式の場で会うそれは意味が違う。友人にまでなれば、身内的な結束も結ばれる。
学園に子供を預ける貴族も、狙いの半数以上がそこにある。人間社会において、かなりの重要度を占めるのは人脈だ。
男子生徒も女子生徒も、ある意味でいえば将来の伴侶を探すことにもなるのだ。特に女子生徒はそれに意欲的と言える──飽くまでも、高等部までは普通の生徒としての面が大きいが。
「(そろそろ帰りたい)」
「(なら帰っておいてくれ。俺は善大王として、このあとの行事に予定を入れている)」
フィアは不満そうな顔をすると「じゃあ私も残る」と言った。
授業が終わり、少年少女の生徒らが興味を持ったように善大王の傍に寄ってきた。
「善大王様、俺も善大王になれるかな?」
「善大王様! 私勉強頑張ってます!」
「善大王様っ! 善大王様っ!」
容姿端麗の若い王ということもあり、人気は上々。
そんな善大王の様子をみて、フィアは人知れずに嫉妬していた。
「(馬鹿ライト。私にだけ構ってくれればいいのに)」
それから全校生徒を集めた講堂で、善大王は一頻りそれらしいことを話し、最後に激励を送ると学園を後にした。
表向きには学校視察。しかし、その正体は……。




