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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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5q

『何も変わってない……』


 フィアはかつて寝泊まりをしたヴェルギンの家を見つめ、そう呟いた。


 ただ、二名はそう思っていないらしく、意外と普通な住居に少なからず驚きを覚えていた。


「火の国の切り札かと思いましたが、そうでもなさそうですね」

「……自身の利益の為に力を使うのは、看過できんのぉ」

「よく言いますね」


 詳しい話は中に入ってから、とばかりにほどほどな会話だけを済ませ、三人は家に入った。


 フィアは駆け込むように中へと入り、一つだけ変化が起きていることに気付いた。


『椅子が一つしか置かれてない……』


 当たり前のことだが、この時代の《火の星》は彼の弟子ではなかったようだ。

 それどころか、誰も弟子を取っていないことが椅子だけで分かる。


「しばし待っておれ」


 ヴェルギンは寝室に入ると、二つの丸椅子を持ってきて、自分の席の対面に二つ置いた。


 御用されたも同然の二人は勧められるまま、それに座りこむ。


「それで、どんな説法を聞かせてくれるんですか?」

「《選ばれし三柱(トリニティア)》がどのような存在か、お前は理解しているな?」

「人智を越えた力を持つ者。王家の力さえ上回り、この世界では手の付けられない存在」


 まさにその通りなのだが、老人は眉を顰めた。


「その通り、じゃ。しかし、質問の意図を理解していないようだ」

「はい?」

「そのような人智を越えた力を持つ者が、自分の欲望に任せて力を使えばどうなるのか、ということを聞いておる。それを考えた上で、どう在るべき存在なのかを聞いておるんじゃ!」


 思った以上に激昂するヴェルギンを見て、ウルスとフィアはびくんと体を震わせた。


『こ、この時代はまだ若いのかな……? こんなに怒ってるのは見たことないけど』


 彼女が見ていた時間など僅かなものだが、実際に彼がここまで酷く激昂する様はしばらく見られなかった。


 ただ、冷静に考えれば当然だ。

 ガムラオルスとミネアの喧嘩、スケープの内通行為などは国家として問題になることだ。

 しかし、《天の太陽》ともなると話は別。彼は世界の秩序を容易に(・・・)破壊する者なのだ。


「……そうですね。《選ばれし三柱(トリニティア)》はその力を使い、世界の平和を守る為に動くべき……といったところでしょうか」

「分かっておるようで安心した」

「ですが、それは綺麗事ですよ。この力は他でもない、私のものだ。それをどう使おうが、私の勝手でしょう?」

「……」


 褐色肌の老人が今にも怒り出そうとしていることは、誰にでも分かった。

 しかし、天の太陽だけは平然としている。


 そんな涼しげな彼を見たからか、ヴェルギンは呆れたようにため息をついた。


何故(なにゆえ)、お前はそう思う」

「当然のことですよ。自分の力を使ってならないなんて道理があるはずがない。人が四肢を使い、自分の好きなように生きていくのと同じように、これは私の一部なんですよ」

「それが世の秩序を破壊すると理解してもなお、同じことを言うつもりか?」

「ええ、それで壊れる秩序など壊れてしまえばいい。それに、今までこうして世界は存続されてきた――それが答えですよ」

「ほう」

「この力を不用意に使えば、敵を作る。それを捻ることは容易でも、厄介事は増えるわけだ。だからこそ、歴代もほどほどに力を使ってきた……だろう、とは予測しましたよ。だからこそ、私もほどほどに留めておきますよ」


 彼は他の《選ばれし三柱(トリニティア)》と違い、比較的理性的な性質を持っていた。

 アカリ、ガムラオルス、スケープ、エルズといった新世代組は《選ばれし三柱(トリニティア)》の力を能動的に利用している。

 それと比較すれば、彼がどれだけ融和的な路線を歩もうとしているかが分かるだろう。


 ただし、それが誉められるのは六属性の者達だけ。《天》がそれを行うことを、ヴェルギンは許さない。


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