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男に案内された先は、さきほど兵に声をかけられた場所だった。
そこでは、財布を盗んだ犯人として、兵士に伸された盗賊二人と、失神した三白眼がいた。
「おい、あれってどういう」
「運んだんですよ。彼らだって悪いことをした人だ」
そう言うと、彼は屈み込み「君もまた、人のお金を盗んだ」と言った。
「見ていたのかよ」
「もちろん。私も妙な子を連れ帰るわけにはいかない」
「誰が拾えって」
「ただ、君を野に放ったらどうなるのかは分かりました。私は救った命が無駄に終わるのは好きではありません」
「……」
「君の名は」
「ねぇよ」
「なら、君の名前はウルスと呼びましょう」
「なんでだよ」
「暴れ熊にでもなりそうだから、ですかね」
ウルスは怒ろうとするが、そんな彼を上回る勢いで怒声が響いた。
「お前、何をしておる!」
『えっ!? なんで……』
フィアは近づいてくる男を見て、驚愕した。
彼女の驚きも当然だ。彼はこの時代においても、やはり同じままの姿をしていたのだ。
「……はい? もしかして、私ですか?」
「お前じゃ。今、何をした」
「捨て子を拾っただけですよ」
「時を操ったな、それも結構な時間」
老人にそれを言われた瞬間、天の国の男は目を細めた。
「あなたは?」
「ワシはヴェルギン。この国の……《雷の太陽》じゃ」
ウルスは何も理解できなかったが、天の太陽はしっかりと理解していたあ。
「同じ《太陽》の……なるほど」
「お前は自分の力を理解して、このようなことをしておるのか」
「どうして力を使っていると分かったんですか?」
「今は、ワシが話しておる」
ヴェルギンはげんこつを叩き込もうとした――が、天の太陽は能力を発動した。
『時を止める能力……この世界じゃなきゃ、私だって対応できるかどうか分からないわね』
今のフィアは記憶を流れる存在であり、故に時間の影響をさほど受けなくなっていた。
しかし、停止世界の住民であるはずのヴェルギンは等速のまま、拳を叩き込んできた。
停止が解除され、コマが飛んだように天の太陽は地面に転がった。
「……《雷の太陽》はこの力に抵抗できる能力があるんですか? それとも、《太陽》ならば誰でも?」
「使うな、と言っておるんじゃ」
『《雷の太陽》に対抗する力があるなんて聞いてない……それに、あの能力は《天の星》だって――私だって、破れないっていうのに』
不意に、フィアはかつてヴェルギンと戦ったときのことを思い出した。
彼は神器による優位を持っていたが、それだけでは説明できないほどの強さを持っていた。
『何かがあるとすれば、この人自身……ただ、ここじゃ聞けない』
フィアは酷く驚いたが、答えを聞くことができないことを歯痒く思っていた。
「……そうですね。ここはこちらが鞘を収めましょう」
ウルスを連れ、その場を立ち去ろうとした彼を見つめ、ヴェルギンは言った。
「お前は、どこで《選ばれし三柱》であることを知った」
「自然と理解できただけですよ」
「師はいない、か。ならば、ワシのところに来い」
「天の国の人間を引き抜くつもりですか」
「なに、そこまで大それたことを言っているわけではない。ただ、しばらく説教を垂れてやろうという話じゃよ」
その一言でおおよそを理解した天の太陽は頷いた。
「では、ついていくとしましょう。連れが一人居ますが、大丈夫ですか?」
「おい、勝手に……」とウルス。
「構わん……いや、それどころかお前がなんと言おうと、ついてきてもらうつもりじゃった」
ウルスは抵抗しようとも考えたが、さすがに二人の男達が自分の認識を越えていると理解し、下手に暴れることを避けた。