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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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2q

「大丈夫かい?」


 声をかけられ、少年は起き上がった。


「だれ」

「通りすがりの旅行者だよ。砂漠で君が倒れていたものだから、助けた」


 そこで、ようやく少年は自分がベッドに乗せられていることに気付く。


「おれ、金はない」

「子供から取る気はないよ。ただの人助けさ」


『人助け、ね』


 フィアは腕を組み、壁に寄りかかってそう呟いた。

 彼女には分かっていたのだ。この男が《天の太陽》であり、通常手段では回復不可能の子供を能力で治したのだと。


 回復は水属性の得意分野だが、空腹などを癒やすことまではできない。

 ただ、彼の肉体は栄養を損なっており、それを急激に回復させることは不可能だった。


 だからこそ、彼はウルスに流れる時間を逆行させ、ある程度生きていられる状態に戻してしまったのだ。

 彼は人助けと言ったが、天に属する《選ばれし三柱(トリニティア)》がこれを行う場合、その他の者が行うものとは比べものにならないほど秩序を乱す。


 他の《選ばれし三柱(トリニティア)》であれば、せいぜい途轍もない力がある、という程度だ。

 ただ、天の《選ばれし三柱(トリニティア)》は世界に対して影響を及ぼす。フィアがそうであるように、世の(ことわり)に反するのだ。


 ただ一人の命を再生させるだけで、運命は大きく揺らぎ、結果的に生者、死者の数が変動する。


 フィアは世界の管理者として、難色を示すが、すぐに目を瞑った。比喩などではなく、実際に。


『って言っても、私も人のこと言えないね』


 子供一人を救った彼に対し、フィアは世界の機構である《皇》の仕組みを改竄しようとしているのだ。

 重さでいえば、彼女の方が遙かに重い。


「それはそうと、君はどこの子供かな? 親御さんも心配しているだろうし、連れて行くよ」

「おれは捨てられたんだ」

「……そうなんだ――なら、私が君を引き取りましょう」


 少年は目を丸くした。


「火の国がこういう国であることは聞いていました。その上で、君が捨てられたことも、そこで死ぬべきことも分かっていました――ですが、私はそれを良しとできなかった」

「……?」

「救った命は最後まで面倒を見る、といっているのですよ」


 子供は酷く警戒し「どうせおれを捨てる気だ」と言った。


「そうですね、ではしばらく一緒に過ごしてみましょう。私は分からず屋(・・・・)と喧嘩別れしてしまいましてね。時間を潰したいんですよ」


 後半部分はよく分からないものの、彼の言いたいことは理解できたらしく、子供は警戒したまま睨み付けた。


「君も町で引き取り手を探してみる、というのも良いと思いますよ。お金は預けますから、自分で選んでください」


 そう言うと、彼は小銭の入った袋を少年に手渡し、部屋から出て行った。


 少年はしばらくじっとしていたが、すぐに袋を漁り、中身を確認した。

 量は多くも少なくもなく、これを持ち去って逃げたところで、長続きしないという額だった。


「めし……」


 空腹感を感じた少年は外に出た。

 そして、その瞬間に驚愕し、感動した。


 そこは彼が今までいたような村ではなく、しっかりとした建造物の多い、栄えた場所だった。

 町中をしばらく歩くと、マーケットを発見する。


 袋の金は十二分にあり、彼は満腹になるまで食事を取り、その後で再び残金を確認した。

 長続きしない額ではあるが、一日を満足に過ごすには多すぎる額でもある。

 少年は目先の幸運に浸り、普段はしないような贅沢を行っていく。

 それでもなお、金は減りきらなかった。


 干し肉などではない、焼きたての骨付き肉をかじりながら、地面に座りこんだ。


「ここ……フレイアか?」


 人混みは並大抵ではなく、褐色肌の人間の他に、他国から来たであろう肌の者達も目に入る。


「生きていくなら、金が……」


 彼は自分の身の丈に余る金を手に入れたことで、欲望を手に入れた。

 欲望の種は膨らみ、子供であっても無尽蔵に大きくなる。

 袋をポケットに突っ込むと、彼は人混みに紛れた。


 盗みは、過去にも行ったことがあったらしく、目を付ける速度は早かった。

 他国の旅行客と思われる者から金を盗み取ると、彼は人混みを逆走して逃げ出す。


 盗まれた者は振り返りこそしたが、すぐに盗まれたと気付かず、少ししてからあの少年に奪われたのだと自覚した。

 しかし、理解したときには遅く、逆走でありながらも少年は男を引き離した。


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