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あれから、二人はよく会うようになった。
最初こそは昼時の小休止に会うくらいだったが、親密度が高まるにつれ、仕事終わりにも合流するようになった。
「――なるほど、駄目な騎士がいたわけだな」
「まるでやる気を感じない男だ。あの程度のこと、できて当然だ」
シナヴァリアは酔っ払っていた。
それも当然で、二人とも相当に飲んでいたのだ。
ただ、善大王については酔っ払ってはいるものの、陽気になるでもなく、怒りっぽくなるでもなく、素面のような態度だった。
「っても、お前のあれは相当ハードだぞ。あれじゃついて行けなくなる奴もでる」
「ならば死んでしまえ」
「……まったく、物騒なことをいいやがる」
「お前であれば、あのくらいは問題ないだろう」
「まぁな。ただ、あんなのを毎日やらされるならげんなりはする」
シナヴァリアは怒るでもなく、酒をなめた。
「だが、お前も相当に悪い騎士と聞いた」
「そうか? 俺は優秀な聖堂騎士だと思うが」
「……素行面だ。城下町で少女に手を出していることは、周知の事実だ」
「ただ、訴えはないだろ? みんな幸せにしているんだよ、俺は」
「聖堂騎士の――善大王様の名を背負っていると自覚しろ」
「ハッ、まぁそこそこにな」
二人はこうして、楽しげに語らうことが多かった。
しかし、呑気な話題ばかりではなく、真面目に話すこともあった。
昼休憩の最中、人気の少ない場所で二人は横並びに座っていた。
「そろそろ教えちゃくれないか?」
「……聞いて面白い話ではない」
「お前と付き合って、ある程度はどういう人間かは掴めた。しかし、お前の中身が知りたいものだ」
シナヴァリアは少し迷った後、口を開いた。
「俺は風の大山脈に国を作る」
善大王は唖然としながらも、すぐに問う。
「本気か?」
「ああ」
これは正気かどうかを確かめる問いではなく、その覚悟があるのかどうかを問うものだった。
そして、シナヴァリアはそれが真であると断じたのだ。
善大王はしばらく考え「面白い」と言った。
これが笑い顔で言っているならば、シナヴァリアは失望し、怒ることもなく席を立ったことだろう。
だが、善大王は真面目な顔で言っていた。
「それで、どんなのを作る気だ? 正直言うが、雷の国の方針はおすすめしないぞ」
「俺は実力次第で地位を得られる国を作る」
「……実力主義ってことか。ふぅーん」
「何か問題があるのか」
「お前が平等を重んじるような、優しい人には見えないな。とすると、シナヴァリアは山でも低い身分なのか?」
「何故、そう思う」
「それなりの身分があるなら、こんなことは考えないからだ。なにせ、こんなことをしたら、自分の身分が危うくなる」
「……山は六大国家に比べ、大きく遅れている。その遅れを帳消しにする為には、普通のやり方では不可能だ」
「山の状況は知らないが、お前の様子を見るに平和なんだろうな」
「停滞しているだけだ。進歩させる為には安定を取り払い、競争と不安定さが必要になる」
シナヴァリアは会って日の浅い男に、自分の本心を打ち明けた。
それがおおよそ常識から外れたものであることは、彼であっても理解できていた。
しかし、男はそれを笑うでもなく、頷いた。
「なるほど、筋は通っている」
「だからこそ、私は宰相を目指している。この国の中枢にまで上り詰めれば、風の大山脈との連結もできる」
それは皮肉にも、未来に行った不正行為そのものだった。
これが成立した場合、自分の私欲の為に光の国を利用する、という言葉は正しくなってしまうのだ。