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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 あれから、二人はよく会うようになった。

 最初こそは昼時の小休止に会うくらいだったが、親密度が高まるにつれ、仕事終わりにも合流するようになった。


「――なるほど、駄目な騎士がいたわけだな」

「まるでやる気を感じない男だ。あの程度のこと、できて当然だ」


 シナヴァリアは酔っ払っていた。

 それも当然で、二人とも相当に飲んでいたのだ。

 ただ、善大王については酔っ払ってはいるものの、陽気になるでもなく、怒りっぽくなるでもなく、素面(シラフ)のような態度だった。


「っても、お前のあれは相当ハードだぞ。あれじゃついて行けなくなる奴もでる」

「ならば死んでしまえ」

「……まったく、物騒なことをいいやがる」

「お前であれば、あのくらいは問題ないだろう」

「まぁな。ただ、あんなのを毎日やらされるならげんなりはする」


 シナヴァリアは怒るでもなく、酒をなめた。


「だが、お前も相当に悪い騎士と聞いた」

「そうか? 俺は優秀な聖堂騎士だと思うが」

「……素行面だ。城下町で少女に手を出していることは、周知の事実だ」

「ただ、訴えはないだろ? みんな幸せにしているんだよ、俺は」

「聖堂騎士の――善大王様の名を背負っていると自覚しろ」

「ハッ、まぁそこそこにな」


 二人はこうして、楽しげに語らうことが多かった。

 しかし、呑気な話題ばかりではなく、真面目に話すこともあった。


 昼休憩の最中、人気の少ない場所で二人は横並びに座っていた。


「そろそろ教えちゃくれないか?」

「……聞いて面白い話ではない」

「お前と付き合って、ある程度はどういう人間かは掴めた。しかし、お前の中身が知りたいものだ」


 シナヴァリアは少し迷った後、口を開いた。


「俺は風の大山脈に国を作る」


 善大王(・・・)は唖然としながらも、すぐに問う。


「本気か?」

「ああ」


 これは正気かどうかを確かめる問いではなく、その覚悟があるのかどうかを問うものだった。

 そして、シナヴァリアはそれが真であると断じたのだ。

 善大王(・・・)はしばらく考え「面白い」と言った。

 これが笑い顔で言っているならば、シナヴァリアは失望し、怒ることもなく席を立ったことだろう。

 だが、善大王は真面目な顔で言っていた。


「それで、どんなのを作る気だ? 正直言うが、雷の国の方針はおすすめしないぞ」

「俺は実力次第で地位を得られる国を作る」

「……実力主義ってことか。ふぅーん」

「何か問題があるのか」

「お前が平等を重んじるような、優しい人には見えないな。とすると、シナヴァリアは山でも低い身分なのか?」

「何故、そう思う」

「それなりの身分があるなら、こんなことは考えないからだ。なにせ、こんなことをしたら、自分の身分が危うくなる」

「……山は六大国家に比べ、大きく遅れている。その遅れを帳消しにする為には、普通のやり方では不可能だ」

「山の状況は知らないが、お前の様子を見るに平和なんだろうな」

「停滞しているだけだ。進歩させる為には安定を取り払い、競争と不安定さが必要になる」


 シナヴァリアは会って日の浅い男に、自分の本心を打ち明けた。

 それがおおよそ常識から外れたものであることは、彼であっても理解できていた。


 しかし、男はそれを笑うでもなく、頷いた。


「なるほど、筋は通っている」

「だからこそ、私は宰相を目指している。この国の中枢にまで上り詰めれば、風の大山脈との連結もできる」


 それは皮肉にも、未来に行った不正行為そのものだった。

 これが成立した場合、自分の私欲の為に光の国を利用する、という言葉は正しくなってしまうのだ。



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