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シナヴァリアはしまった、という顔をした。
彼らしくもない態度だが、善大王はそれを面白がった。
「俺をつけていたのか?」
「いや、俺も宿に寄る途中でな、その時に軍人サン同士が浮ついた話をしていたもんだから」
「(アカリめ……)」
自分の油断と、それを許したことが問題ではあったのだが、今はそれを鑑みる余裕がなかった。
「あいつとは内々に話すことがあった」
「……なに?」
「お前も騎士ならば分かるだろう。それを聞き出すことがどういうことか」
「ああ、機密って奴か」
二人は食堂棟を抜け、快晴のもとに出た。
「そういうことだ。私には付きまとうな」
「そんなに付きまとってねーよ。それに、言われるまでもねーよ」
彼はそういうと、諦めたように歩き出す、
「お前は思ったよりも大したことのない男らしいしな」
「勝手に言え」
「教官殿に忠告を一つ。ああいうことをする時は、場所を選ぶことだな。あの後輩ちゃんの盛り上がりを聞かされたんじゃ、お隣さんに迷惑だぞ。それじゃ――」
シナヴァリアは彼の肩に手を置くと「飲みにいくか?」と言った
「ん?」
「さっき言っていただろう。少しくらいは付き合っても構わない」
「付きまとうなって言ったろ」
「……お前とは、少しばかり話がある」
「あーなるほど。よし、いいだろう」
優劣は逆転し、善大王が主導権を握るような形になった。
二人は酒場に向かうでもなく、喫茶店に入った。
昼飯時で混み合っている場所が多いものの、そこは高級店だけあって優雅な時間が流れている。
「ここなら聞き耳を立てる奴もいない」
「何故、そうだと言い切れる」
「俺もよく使うからだ。辺りの奴らが妙な反応を見せたことはない」
シナヴァリアは目の前の男が何を知っているのだろうか、と疑問に思った。
「単刀直入に言おう。この件は口外するな」
「一々広めてしてどうする。ってか、見た目の通りにむっつりなんだな」
「私は好きでやったわけではない」
「俺は好きでやってるけどな」
やはり軟派な男だ、と確信を持ちながらも、シナヴァリアはこの男を黙らせなければならなかった。
別段、誰かと肉体関係を持ったところで、大きな問題にはならない。
ただし、相手がアカリであるということを考えると、色々と難儀があった。
彼女は善大王が保護した相手であり、諸事情で暗部に入ったものの、場合によって善大王の養子になっていた女なのだ。
「それで、どうだったんだ?」
「なにが」
「機密の具合」
シナヴァリアは口許を歪めた。
「おいおい、怖い顔をすんなよ」
「聞いてどうする」
「うーん……あの子に手を出す気にもならないしな、とりあえず同類の感想を、と」
「先ほどから同類だなどと、何のことを言っている」
「いや、その時に俺も連れがいたんだよ。かなり可愛いブロンドの女の子」
「……」
シナヴァリアはふと、その当時のことを思い出した。
「(確かに、妙に隣がうるさかったことがあったな……)」
子供の嬌声が聞こえてきたこともあり、ことを終えたあと、二人は隣に突入するかどうかを話し合ったことがあったのだ。
「隣で盛り合っているもんで、こっちも盛り上がっちゃったわけだ」
「言っておく、私はお前とは違う」
「なんだ、お前は幼女好きの男だと思っていたが、違うのか」
「違う」
「ハッ……道理で、だな」
シナヴァリアは顔を顰めるが、給仕役が来るのを確認したのか、善大王は人差し指を口の前に持ってきた。
そして、運んできた女性に愛想のいい笑みと共に礼を言うと、コーヒー二杯を受け取った。
「とりあえず飲むか。ここのは美味しいぞ」




