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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
129/1603

25

 何度か瞬きをし、アカリは目を覚ました。

 自分の下には緑の草が生えており、遠くには雷の国の城壁が見える。

 すでに外は夜になり、肌寒さが薄着のアカリを苦しめていた。


「寝ていたんだねぇ……それにしても、懐かしい夢だよ、本当」


 独り言を呟き、アカリは立ち上がる。運ぶのを面倒に思いながらも、タダではないので水筒を拾い上げた。

 暗部を抜けた後、バウンティーハンターとしての道を見つけるまでに時間は掛からなかった。

 シナヴァリアの手ほどきもあり、腕で不足することはなかった。挙句、彼女は神器まで使えたのだ。

 十分すぎる富を蓄積しながらも、彼女は満たされないとばかりに金を求め続けた。

 浪費も次第に激しくなり、稼いだ金が瞬間的に溶けていく様を見ながらも、他の部分を節約してどうにかやりくりをしている。

 適当な宿を見繕うとしても、時間が時間なだけに大抵が満席。入ろうとしても通常よりも割り高な代金なので泊まる気にもなれないらしい。

 そうして城にやってきたアカリは、厚顔無恥にも王に告げる。


「部屋を貸してくれないかねぇ。恩人になら当然だね?」

「分かりました。すぐに用意させます」

「ああ、適当でいいよ、適当で。あたしゃ寝れれば満足だから」


 そう言いながらも、アカリは王族の食事に平気で参加していた。

 広い部屋でラグーン王とライカが食事をしており、そこに何食わぬ顔でアカリが座る。周囲で様子を見ている侍女、侍従らの目線が刺さりながらも、やはり気にせずに食事を進めた。

 暗部時代に最低限のテーブルマナーを覚えてはいたアカリだが──必要科目ではないが、シナヴァリアに叩きこまれていた──ここでは食堂でするような粗野な食べ方をしている。


「礼儀と言うのを知らないの?」ライカが言い放つ。

「礼儀? そんなものにこだわっているからいつまでもちっこいんだよ。夢は大きく、自由に適当にってね」


 大仰に手を広げ、演劇でもしているかのように高らかに返す。

 そう言っても、アカリは決して豊かな体つきをしていなかった。

 王族に対して平気でものを言う辺りは、暗部時代とは相反していると言わざるを得ない。自分を変える為に、また一度、何もかもをやり直したのだろう。

 なにより、彼女は自分に力があるという自信があった。だからこそ、喧嘩を売っても問題ないとすら考えている。


「言っておくけど、あなたに助けられなくてもあたしはどうにでもできるのよ。自由を奪っているのはあなたの方じゃない」

「そりゃ、お姫様を助ければ報酬がたんまり貰えるから……あっ、言い忘れていたねぇ、自由奔放で自己中心的。それが楽しく生きるコツさね」


 ライカはアホ毛をいきり立たせ、目に見えて明らかなほどに威嚇していた。


「……おなかいっぱいになったーなった。満足満足、それじゃあたしは部屋に戻らせてもらうよ」

「なっ! まだ話は終わって──」

「あんまり怒ると子供っぽく見えちまうよ」


 そう言い、ライカの額をつつくと、アカリは部屋を後にした。

 そのまま黙って城の外に出て、裏の広場へと歩いていく。

 そこには数名の男達が闇に紛れており、今か今かと攻め入る機会を窺っていた。

 アカリが気づいたのは少し前。食事している最中、窓の外に人影を見たからだ。

 偵察に一人来ていたというのはすぐに分かり、魔力の探知をして残る人員を割り出した。すぐに攻めてこない辺り、集団行動を弁えている人間だとも判断できていた。

 しばらく様子を見た後、アカリは何食わぬ顔でその者達に接触した。


「なにしてるんだい?」

「ッ──散策中ですよ」


 人相の悪い男達が夜中に散策。嘘にしても不恰好だった。


「王族の暗殺が狙いかい?」

「この女、王族に会っていた」

「ならば敵か? 消しておくべきか」


 小さな声での話し合いだったが、アカリには筒抜けだった。

 瞬間、彼ら一人一人の背後から火球が放たれ、抵抗という選択肢が出る前に決着がついた。

 暗部ならば声は掛けずにそのまま消していた。ただ、今はフリーのバウンティーハンター、問答無用で消していいような権力はない。

 通信術式を開いてラグーン王に繋ぐと、不審者を撃破したことを告げる。それに対する報酬支払いも何気なく行っていた。


「……あんた達も運が悪いねぇ。あんな夢見た後じゃ、目について仕方ないんだよ」


 常に暗部の影に怯えていたからこそ、アカリは普通の人間が見逃すようなことにさえ目がいくようになっていた。

 それは日常化していたが、あの夢の後ということもあり、注意は強くなっていたのだ。

 兵隊がやってくるのを確認すると、アカリは入れ替わるようにすれ違っていき、自室に向かって歩き出した。

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