表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1288/1603

24q

 光の国に戻り、シナヴァリアは暗部としての活動を続ける傍ら、施設で助けた少女――アカリの世話係を任されることになっていた。


『あっ、あの時の船の人だ』


 さすがのフィアも、船の上でしばらく生活していたこともあり、彼女のことを覚えていた。

 しかし、思い出したのは名前を聞いてから。幼い頃の顔を想像するほどに興味はなかったようだ。


 シナヴァリアは多くの人間を殺し、任務を遂行し、地位を上げていった

 そして、仕事のない日も、ある日でさえ、城の図書室に赴いては学問に励んだ。


 彼の姿は、どこか狂気を帯びていた。

 狂ったように働き、学び――何かに取り憑かれたように、自身の幸福追求を捨てているように活動を続けている。


 ただ、彼にとってはこれもまた幸福だった。何かを獲得する快楽は、他の人間とはおおよそ共有しがたいほど強かった。

 同じ人間であっても、こうしたタイプの違う者は多い。

 ただ、それにしても完全に違うわけではない。ただ、幸せの在り方が違うだけなのだ。

 たったそれだけで、まるで非人間的な印象を抱かせる。


 隊長、暗部のトップ、騎士団の教官と地位を上げていくシナヴァリアは、ある時に妙な男と出会った。


「根暗な奴だ。挨拶くらいしないのか?」


 軍人向けの食堂の中、シナヴァリアは突然そんなことを言われた。


「……」

「無視かよ」


 彼は黙々と、まるで暖炉に薪をくべるように食事を口に運んだ。

 彼にとっての食事は、ただの燃料補給だった。いちいち楽しむものでもなければ、誰かの談笑しながら行うものでもない。


「教官サン、あんたはどこから来たんだ?」

「教官と知っているならば、話しかけるな」

「連れないな。その髪からして、風の一族だろ? ……俺はどうにも、その地方には行ったことがないんだ。可愛い子はいるのか?」


 ここに来て、彼はようやく違和感を覚えた。

 光の国は敬虔な信徒が多く、教会の影響もあって良い人間が育ちやすいのだ。

 ただ、この軽薄な男はその印象を感じさせなかった。


「お前に話す義務があるのか?」

「ああ、義務ならある。可愛い子がいるなら、俺に言うのは義務だ! ……ってな」

「あの山に入ることはできない。それに、お前も騎士団の一員なら、勝手に外に出ることは許されない」


 勝手に、とは言うが、一応許可を取れば山に戻ることはできる。

 彼でさえ、年に一度は故郷に戻り、ティアの相手をしていたのだ。


「なら、許可を取るまでだな。故郷の家族が危篤で、ってな具合にな」

「……嘘偽りを言うか」

「嘘も方便だ。そうやってリフレッシュした方が、きっちり働ける。くたくたの手駒より、優秀な手駒の方がいいだろ?」

「少なくとも、私に話したからには通らないな。騎士団の休暇申請は、私の段階でも止められる」

「ハッ、生憎俺は聖堂騎士でね。教官サンじゃあ俺は縛れないな」


 聖堂騎士と聞き、シナヴァリアは表情を変えた。

 彼はアカリを救出する任務の最中に、聖堂騎士の実力を見ている。

 もちろん、シナヴァリアであれば対応できる範疇の相手ではあるが、楽に倒せる相手ではないと感じさせた。


 ただ、今は善大王麾下(きか)である騎士が、このような態度で、このような場所に来ていることに驚いていた。


「聖堂騎士がこんなところに来るとは珍しい」

「ああ、金なら腐るほどある。だから、ここで無料の飯に(たか)る必要はないわけだ」 


 その無料の飯に集っている者達は一斉に彼を見た。


「おーこわ。ってもまぁ、ここの飯は悪くない」


 彼はそう言うと食事に手を付け始めた。


「聖堂騎士ならもっと行儀を良くするべきだ。善大王様の顔に泥を塗ることになるぞ」

「その程度で名が落ちるものか。なにせ、ここに居るのは身内だ、自分らのボスを貶めて首を絞める阿呆はいないだろ?」と、食べながらに言う。


 屁理屈のような言い分だが、シナヴァリアは関心していた。


「(素行を正さない理由にはならないが、この男は適切に場を観察しているようだ)」


 つまり、ふざけていい場所だからこそふざけている、ということ。

 何も分からずに冗談を言っているわけではなく、安全であると確認した場面でやっているのだ。


「飯を食い終わった後は()いてるか?」

「仕事がある」

「あーなら、仕事しながらでもいい。どこかに飲みにいかないか?」


 そう言う彼はもう食事を終え、二枚目の顔で笑みを向けてきた。


「名前も知らない男に付き合う時間はないと言っている」

「……俺か? 俺は聖堂騎士の善大王(・・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ