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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1287/1603

23q

 彼が暗部に入り、しばらくは諜報任務などが続いた。

 しかし、ほどなくして暗殺の任務が命じられた――が、彼は迷いなく、誰よりも鮮やかに対象を殺した。


 風の一族としての――そして、風の巫女と渡り合うだけの体技を身につけた彼は、誰よりも強かった。


 そして、彼の名が暗部の中で上がりだした頃、特殊な任務が与えられた。


「火の国に向かう」

「ノーブル様、それはどういうことですか」

「善大王様が公式に、あちらの国に向かわれることになった」

「祭事、ですか」

「そういうことになっているが、実際は救助、殲滅の任務だ。

 あちらの国に、人攫いを行う組織があると判明した。その者らの施設に乗り込み、救助を行う。無論、暗部からはお前を選出した」

「暗部だけで動くのでは?」

「まさか、主となるのは聖堂騎士だ。なにせ、今回は善大王様が直々に向かわれるというのだ――お前には、その護衛を任せたい」

「救助と、殲滅と、護衛……ですか」

「シナヴァリア、お前であれば容易いことだろう」


 彼はしばらく考え「分かりました」とだけ答えた。


『聖堂騎士と善大王……ここはライトと関係なさそうだし、いいかな』


 火の国で出会う、という可能性は多少存在していた。

 しかし、彼女は全く関係がなさそうと思った瞬間、興味を失ってしまったのだ。


 出発した部隊は光の国の軍艦に乗り込み、ガルドボルグ大陸に向かった。

 フィアはぼけーっとした態度で彼らについていき、ほどほどに様子を見ていた。


 無限の如くに感じる砂漠を歩き、施設を探すという非常に退屈な時間だった。


「ヘルドラゴだ! 早急に撃破するぞ」


 砂漠で最も恐れられる存在との遭遇で部隊は揺れるも、すぐに戦闘態勢が取られた。

 シナヴァリアは目立つ機会だというのに、防御の術で支援に徹していた。

 それもこれも、善大王の様子を見る為だった。


 ただ、彼が出張るまでもなく、聖堂騎士達は優秀だった。

 あっという間に龍を撃破し、進行が再開した。


 そうこうする間に施設を発見し、シナヴァリアは敵の構成員を殺していくと同時に、危険に首を突っ込んでいた善大王を守った。

 しかし、助けられたのはたった一人だった。


 赤髪の少女を連れ、部隊は帰って行く。


 帰りの船の中、甲板に立っていた善大王は誰も居ないにも関わらず、呟いた。


「お疲れ様」

「……」

「一人で退屈なんだ、少しは付き合ってよ」


 明らかに気付かれていたこともあり、シナヴァリアは影から出てきた。


「私でよければ」

「ああ、構わないよ」


 二人は黙って海を見ていた。

 先んじて話し出したのは、意外にもシナヴァリアだった。


「あの娘、本当に連れ帰るのですか?」

「そうだね」

「火の国に預ければ良かったものを」

「……フレイア王はそういうのは受けないよ。それに、火の国の環境を見れば分かるだろう? 預けたところで、彼女は身内もなく砂漠に放たれるだけさ」


 優しい、と言われる善大王だが、判断能力が鈍りきっているわけではなかった。


「……では、あなたは違うと」

「できる限り、保護しようと思うよ」

「あなたには善大王としての仕事がある。子供の相手をする時間はないはずだ」


 普通に聞いていた善大王だが、この言葉の途中で彼の声色が変わったこともあり、彼の顔を見た。


「……ノーブルは君の将来について、何か言ったのかな」

「……いえ?」

「はは、ノーブルもいい子を引き入れたわけだね」


 シナヴァリアは困惑した。王が何を言っているのかを理解できなかったのだ。


「彼は君を、自分の後釜に据えようとしているんだよ。なにせ、本来譲るはずだった人は、この国を出て行ってしまったからね」


 自分が宰相に、という事実は驚きをもたらした。

 いくら外界の欲望の乏しい彼とはいえ、国家の中枢職という立場には関心を抱かざるを得ない。


「君の言葉……考えっていうのかな。まるでノーブルに叱られているみたいだった」

「過ぎたることを……申し訳ありません」

「いや、構わないよ……ただ、どうにも違和感があってね。君の言葉から、王のそれを感じた」


 これは彼の資質というより、王が王たらんとする理想を確として持っている人間、という意味である。

 思考こそは宰相だが、さらにその先を見る野心があると悟られたのだ。


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