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フィアは退屈になり、窓の外を眺めながら、話半分に様子を窺っていた。
しばらく経ち、二人の声が止まった時点でフィアは振り返る。
「……」
「……」
二人は黙ったまま見つめ合っていた。
『どうだったんだろ』
フィアは答えが気になり、宰相の頭を覗いた。
「(不合格だ。しかし、この男、話に聞いた通りであれば、山で学んだはず……)」
フィアはがっかりするが、すぐにぞっとした。
『あれ、これじゃシナヴァリアさん……光の国に来なくなる? あれ、私が無視してたから悪かったの!?』
手出しをしないようにしよう、と思ったばかりだったが、彼女は少しだけ反省した。
しかし、すぐにそれは覆る。
「ビフレスト王から何か聞いたか」
「いえ」
「……正直に言おう、不合格だ。今までどこで学んできた」
「風の大山脈で。父が所蔵していた本から学んできました」
「なるほど」
宰相は渋い顔をした後「どうしてこうした答えになった」と聞く。
「分からない問いについては、その場で考えました」
「なるほど。今言った通り、不合格は確定だ。しかし、お前には見込みがあるとみた――暫定的に、騎士団に所属してもらう」
シナヴァリアは解せないと言った様子で宰相を見つめた。
「と、言うと」
「お前に絶対的に不足しているのは、知識だ。能力については問題がないと判断した。だからこそ、騎士団に所属して働いてもらう。学習は職務時間外に行え」
それを聞き、シナヴァリアは頭を下げた。
「しかし、お前は正規の騎士団には配属させない」
「非正規の軍があると?」
「国家直轄の、歴とした騎士団だ。しかし、表立った身分はない――国家運営の裏方、暗部への所属だ」
「分かりました」
即決するシナヴァリアを見て、宰相は不機嫌そうな顔をした。
「詳しく聞くこともなく承諾するとは、どういうことだ」
「その異質な騎士団であっても、学ぶことはできるのでしょう? であれば、構いません」
「人を殺すことも多い。無論、殺されることも。公式の身分も低く、脱退は許されない――分かっているかも知れないが、メンバーは決して良い者ばかりではないぞ」
「それは私にしても同じことですよ」
彼の様子を見て、宰相は口許を緩めた。
「風の一族と聞いて、戦力的な評価はしていた。しかし、君はやはりこちら側の人間だったようだ」
「……」
「私はこれまで、多くの人間を見てきた。だからこそ、おおよそは分かるのだ。羊と犬と、そして狼の違いを」
「私は狼だと」
「ああ、そうだ。犬に紛れ、群れの害となる者を取り払う存在だ」
『なんか物騒だなぁ』
フィアは呑気に話を聞きながら、善大王の存在を考え始めた。
「(シナヴァリアさんが光の国に入ったってことは、ここからは凄く注意しないとだね)」
彼女はシナヴァリアと善大王の出会いを知らない。
だからこそ、二人が遭遇するタイミングを見逃せなくなった。
これまではそこそこに観察していたが、もっと真面目にしなければならない、ということである。