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「ビフレスト王から話は聞いているよ」
案内された応接間で口を開いたのは、この国の王である善大王だった。
「風の一族、か。希望は?」
優しげな善大王と違い、その男は温和ではなく、宰相らしい態度を取っていた。
希望は、と聞いてはいるが、眉を顰めた態度などからして理解した上で聞いているようだ。
「文官を」
「……私としては、君を戦力として組み込みたい。風の一族としての実力を見せてもらいたいのだが」
「いえ、私は風の一族ですが、非力です」
「文官と言うが、容易になれるようなものではない。そして――言わせてもらうが、不足もしていない」
「その上で、お願いさせてもらいます」
そう言い、シナヴァリアは頭を下げた。
善大王はかしこまる彼を見て「頭をあげて! 大丈夫、推薦し――」と言いかけたが、宰相はそれを遮る。
「試験を受けることは聞いているか?」
「……あるだろう、ということは覚悟していました」
「ビフレスト王たっての願いだ。だからこそ、こうして会う機会も設けた――その上で、私は君を騎士団に推薦しようと言っている。その条件ならば、無条件で受けよう」
破格の条件だった。
騎士団の一員となれば、もはや貴族も同然である。身元不明――王の紹介はあるが――で実績もない男を取り立てるにしては、あまりの好待遇だ。
愛想こそはないが、宰相は通常では考えられない条件を提示していた。もちろん、シナヴァリアはそれを理解している。
「私はこの国で多くのことを学びたい」
「……君はどこかの間者か? でもなければ、この条件を蹴るのは異常だ。光の国の中枢に潜り込み、なにかの悪事をするでもなければ。いや、あの山にそれだけの知恵者がいるはずもないか」
明らかな挑発だが、シナヴァリアは乗らなかった。
ただ、皮肉なのが彼の言った内容が、現代では実際に実行されたということだ。
管理官のクラーク然り、法王代理のバルバ然り。
「試験を行わせてください」
「使えないと見れば、それまで。無論、騎士団の件もなしになるが、それでも受けるか?」
「はい」
迷いなく答えられ、宰相は笑った。
「(貴族にまったく興味がないとは、馬鹿でなければ大した男だ)」
ここでの提案を蹴るようであれば、軍人として使うには面倒な人材だ。
だからこそ、彼の言い分は全て本気だったが、その上でシナヴァリアは僅かにも迷わなかった。
それもそのはずだ。彼は外界での地位や名誉に興味などなく、ただ単純に統治者として成長することを望んでいるのだ。
「では、受けてもらおう。善大王様、この男を連れて行きます」
「シナヴァリア君、頑張って。応援くらいしかできないけど」
シナヴァリアは頭を下げると、宰相に続いた。
個室に連れて行かれると、椅子が二つ対面で置かれていた。
二人は座ると、問答が始まった。




