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牢屋に叩き込まれたシナヴァリアは全額を奪われてしまい、王族と会う機会を完全に失った。
「刑は追って伝える」
そう言うと、全員は去って行った。
「……さて、少し待ってから行くか」
シナヴァリアは壁に寄りかかり、しばしの休憩を行うことになった。
だが、フィアは一人で去って行った男達を追跡――気付かれないと分かった上で走っていた。
「にしても、風の一族なんて珍しいな」
「無抵抗だったのが問題だ。何かをする気ではないのか?」
「で、あってもあの牢は破壊できない。鍵を使わない限り、鉄格子を走る天属性の導力は消えない」
物理的に破壊しようにも、鉄格子に触れれば強力な天属性が流され、作業を中断させられてしまう。
もし突破するのであれば、それこそ一瞬で破壊しなければならない。
「いくら伝説の一族っていっても、脱出はできないな」
「だが、相手が相手だ。王に直接伝えるべきか」
フィアはそれを聞くまでもなく、牢屋に戻った。
「……足音も十分に遠退いた。もうそろそろか」
シナヴァリアは立ち上がり、扉を無理矢理こじ開けようとした。
もちろん、彼はこの牢に何かしらの仕掛けがあることを見抜いており、休憩中に髪を投げつけることでその威力も見極めていた。
その上で、突破することは十分可能だと判断した。
頭一個、それだけの大きさに広げることができれば、かなり強引に突破できる。風の一族はそういう者達なのだ。
彼が鉄格子に手を触れた瞬間――特に何も起こらなかった。
「……?」
奇妙な感覚を覚え、彼は押してみた。すると、扉は何の抵抗もなく開いてしまう。
「……どういうことだ?」
罠の危険性も考慮したが、牢の中からは死角だった位置に、鍵が転がっていた。
「鍵をかけ忘れた? そんなことがあり得るか?」
死角ではあるが、中から取るのは不可能な位置だった。罠にしては、明らかに不可解だった。
「余計な手間が省けた。これで、余力を削らずに済んだ」
走って行くシナヴァリアを見て、フィアは驚く。
『はぁ……はぁ……えっ!? もう行くの!?』
彼女は急いで立ち上がり、彼の後を追った。
シナヴァリアは驚異的な力を発揮し、城の中を駆けていく。
人の位置を音で探り、回避不可能な時は天井に貼り付くなど、それこそ人間業ではないことをし、突破していくのだ。
そうして、謁見の間に到着すると、彼は迷わずに突入した。
「……!?」
唐突に現れた緑色の髪の男が視界に入り、部屋を出ようとしていたビフレスト王は驚いた。
「ビフレスト王ですか?」
「……お前は、捕らえられたという風の一族か?」
「はい」
ここまで、彼の想定通りだった。
民の忠誠が思いの外高いと見るや否や、彼は金銭での買収ではなく、恐喝じみた方法を取ることにしたのだ。
だからこそ、わざと捕まり、首都内に入ることを選んだ。
「強引な方法だ」
「ですが、私はここに来ています」
「実力を買え、というのか?」
「はい」
ビフレスト王は鼻で笑うと、背を向けて玉座を目指した。
そして、座すと同時に彼は「なんだ、兵士として雇って欲しいのか?」と挑発じみた言い方をした。
「それでも構いません。ですが、報酬として、この国で学ぶことを許していただきたい」
「……ただの兵隊が何を学ぶ必要がある」
「知識を。全ての知識を」
「馬鹿者が。私が冗談を言っていることが分からんのか?」
シナヴァリアは急激に接近し、ビフレスト王の首に手刀を突きつけた。
「私は、冗談が言えないことをおわかりいただけましたか?」
「……全く、何を考えているのか分からない男だ」
彼は死の間際に居るというのに、何も恐れていなかった。
しかし、それは剛胆であるというより、どこか無鉄砲な――破滅的な余裕だった。
「王を殺したところでどうなる? お前は確かに強い……だが、所詮はただ一人の人間だ。私が殺せても、この国には勝てない」
「……私は強くなどありませんよ」
「謙遜か? 冗談は言えないと言う割に、ひどく人の世の理を理解しているではないか……山猿風情が」