24β
「アカリの行方は」とノーブル。
「定期船にアカリと思わしき女性がいたことが確認されています。すでに他国に渡ったのかと」
シナヴァリアは静かに報告し、書類をノーブルに手渡す。
「……なるほどな」
「その前兆がありながらも、それに気づけませんでした」
「……気づけなかった、か。ならば仕方あるまい」
シナヴァリアはアカリの言葉から、おそらく一言目の時点で彼女が暗部から──光の国から抜けようとしていることに気づいていた。
生来の彼ならば、それを見逃さなかっただろう。愛をもって止めていたか、無情にも言い訳が不可能な場所──具体的に言えば船内──に逃げた時点で殺していた。
それをしなかったのは……できなかったのは、幼い時から彼女の面倒を見てきたからだろう。彼からすれば、アカリは妹のような存在に思えたに違いない。
ただ、それを理解できないノーブルでもなく、彼も納得した上でシナヴァリアの勝手な行動を咎めようとしなかった。
「追跡部隊を送りますか」とシナヴァリア。
「構わない。いずれ光の国に訪れた際には捕縛しろ。善大王様が不在の今、戦力を他所に割きたくはない」
二人は長い沈黙の後、席を立った。
シナヴァリアからすれば、この流れはあまりにも理想的すぎた。
ノーブルは自分と違い、感情論で動く人間ではないとも理解していただけに、シナヴァリアはひとつの勘ぐりをする。
「善大王様から何か?」
「……それを言う時ではない」
ノーブルは真実を抱えたまま、部屋から出て行った。
一人部屋に残ったシナヴァリアは再び椅子に座ると、頭を抱えた。
「(また、救えなかった。本当に、学習できない奴だ)」
シナヴァリアは真の意味で、アカリを良く思っていた。だからこそ、救えるものならば救おうとしていたのだ。
しかし、今の彼では暗部入りしたアカリを救うことはできない。暗部から抜ければ、逃亡しなかったとしても処される。
一度暗部に入った者は、機能的な秘密を明かされぬよう、死ぬまで組し続けなければならない。それはどんな理由があっても変わらない。
自分が国家の中枢職になっていれば、少しは融通を利かせられたかもしれない、そう思う度にシナヴァリアは頭を抱える。
だが、シナヴァリアは感情だけで動く人間ではない。ある程度考えた後、彼は立ち上がり、仕事に戻っていった。
当面は放置で安定させ、行く行くはアカリが大手を振って光の国に戻れるように手を尽くす。シナヴァリアは多くある目標の一つにそれを加え、達成する為に動き出す。




