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盗賊との遭遇の度に激昂する、ということはなくなり、次からは遭遇した相手から全額を奪い取って路銀に追加していった
ただ、そのような汚い金稼ぎに特化するでもなく、彼は地道に食用に獲得した獲物の副産物を加工し、売りに出す。
町や村の多い水の国はもちろん、雷の国に到着する頃には売値は跳ね上がっていた。
「風の一族の……なるほど、妙な加工がされている」
愛想のないラグーン人はそう言い、骨細工の鳥を見つめた。
「量産は」
「できない」
「だろうな。ならば、金貨一枚だ」
明らかに法外な値段だったが、彼は驚かない。
「感謝する」
「今後、旅を続けるのか?」
それを聞かれ、シナヴァリアは迷った。
この問いかけをされた次に来る言葉は、大概「私のもとに来ないか?」である。
もちろん、彼にその気はない。シナヴァリアは国の運営を学ぶべく、天の国を目指しているのだ。
「はい。ですが……」
「なるほど。ならば、光属性使いの冒険者と会った時は、助けてやって欲しい」
「……どういうことですか?」
「なに、この細工の値段はせいぜい銀貨二枚といったところだ。しかし、君の力量は金貨では計れないものと見た。だからこそだ」
「お知り合いと会えるかは、保証しかねますが」
「構わない」
奇妙な相手だったが、やはりシナヴァリアは驚かない。
なにせ、相手は他国では大貴族に相当する、富豪なのだ。
戯れや酔狂で金を使うのもおかしくない相手である。だからこそ、交渉の機会を得るべく努力したのだ。
『二人、何を話しているんだろ?』
二人は読み合いを前提にした会話をしていた。
だからこそ、具体的になぜなにという問答は存在していない。
フィアはそれ故に会話の意味が分からないまま、首を傾げるのであった。
そうして、シナヴァリアはラグーンに到着するまでに十分すぎるほどの金を蓄え、船に乗り込んだ。
こうした金稼ぎは私欲によるもの、というわけではなく、様々な思惑の上で行われていた。
一つは生存能力の確認。この外界で生きていけるかどうか、という部分。
二つは力試し。自分の知識がどの程度身についているか、ということを調べる為の挑戦。
三つはもしもの為。何の後ろ盾もない状態で大国に向かうということもあり、彼はある程度の金を稼いでおく必要があった。
船に揺られ、ケースト大陸に到着すると、彼は光の国での補給を考慮せずに天の国を目指した。
幸いなことに、ケースト大陸の情報は豊富にあり、かつ情報も比較的新しかった。
首都を経由せず、町村だけでも補給ができると踏んだのだ。
とはいえ、それは危機管理の一環としての計画であり、彼からすれば寝床も食事も外で十分に調達できる。