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彼は里の民芸品などを水の国で売り、路銀を稼ぎこそしたが、それは宿泊料などではなかった。
昼は外で狩猟をし、夜までに寝床を作ると、野宿で一夜を越す。
それを何日も続け、彼は雷の国を目指した。
「おらおら、金出しやがれ!」
野宿する機会が多かった為か、彼は幾度か盗賊と遭遇した
しかし、今回は規模が大きかった。なにより、気になる部分があった。
『シナヴァリアさん、大丈夫かな……』
「お前は風の一族か?」
「兄貴、こいつなにか言ってやがりますぜ!」
十人の盗賊の中、一人の下っ端が苔色の髪をした盗賊に言う。
だが、シナヴァリアは待つまでもなく、その男の顔面をへし折り、地面にたたき伏せた。
「お前には言っていない。兄貴とやら、お前に言っている」
彼の動きの軌道が見えなかったこともあり、ほとんどの盗賊が幻でも見たかのように困惑した。
しかし、ボスと思わしき男は堂々とした様子で近づいてくる。
「おめぇやるじゃねえか。ただの野良かと思ったら、中々いい目をしている」
シナヴァリアは黙っていた。
「だが、攻撃した相手が悪かったな。俺達は盗賊ギルドの人間だ……構成員を攻撃したともなれば、ただじゃあすまねぇぞ」
「お前は風の一族か?」
「んー? まぁいい、お前の実力はなかなかだと思った。どうだ、俺の部下にならねぇか? そうすれば、この件は見逃してやろう」
返答がないと見ると否や、彼は掌底を放ち、兄貴と呼ばれた男を倒した。
「あ、兄貴!」
「おいおい、こいつやべーぞ」
「いや、八人もいりゃ勝てる! ぶっ殺せ!」
「(外界には盗賊ギルドという巨大組織があるのか……その勢力までは知らなかったが、この程度ならば無視してもいいだろう)」
襲いかかってきた盗賊達を次々と薙ぎ払っていく。最後の一人になるまで、時間は掛からなかった。
「ゆ、ゆるしてくれよ! 俺は兄貴から命令されただけで……金、金ならいくらでも!」
そう言うと、男は盗賊達の懐から袋を取り出し、全てをシナヴァリアの前に出した。
それを手に取り、シナヴァリアは酷く憤った。
「俺はお前達のような、治安を乱す輩が嫌いだ。貴様等のような者達がいるから、為政者は余計な苦労を負うことになる」
彼の口調は次第に荒くなり、怒りが露わになる。
座学専門とはいえ、彼は為政者の視点から物事を語った。
後に対峙することになるであろう、治安を悪化させる要因を目の前にし、それを暴力で解決できると知って気が立ってしまったのだろう。
仏頂面の彼が怒りを湛えた顔はそれはもう恐ろしく、挽肉も同然の姿にされるのではないか、と盗賊が竦み上がるほどであった。
「お、俺! 俺達、心入れ替えます! これからは世の為、人の為に働きます! だから――」
「……もう二度とその姿を見せるな」
「へ、へい!」
シナヴァリアはその場から立ち去った。