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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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13q

「お兄ちゃん、つよーい!」


 シナヴァリアは現代(・・)では見せないような笑みを浮かべ、ひっくり返っていた少女に手をさしのべた。


「いいや、ティアのほうがきっと強くなるさ」

「じゃもっかい!」

「ああ、いいよ」


 あれほど戦うことを嫌っていたシナヴァリアだったが、二人目の妹であるティアが望む時には、常に応じていた。

 どれだけ勉強が忙しい時だろうとも、どうにか時間を作り、彼女が満足するまで付き合っていた。

 まるで、それまでの彼とは対照的な姿であり、里の人間は彼の存在が掴めなくなっていた。


 里に戻る二人を見て、好意的に捉える者も居れば、奇妙だと考える者もいた。


「ウィンディアスは何を考えているのだろうか」

「いいことではあるのだが……話によると、夜遅くまで起きているみたいだ」

「ただ妹の為に頑張っているならいい話じゃないか」

「初めからそうしていれば、先代は――」


 そんな話が続いているのを、当然二人は気付いていた。

 ティアは眉を曲げるが、シナヴァリアは彼女の肩に手を置き、首を横に振った。


「なんで!」


 彼女が大きな声を出すと、話していた者達は散っていった。


「俺はどう思われようとも構わない」

「そういうのはよくないよ!」

「……いや、いいんだ。むしろ、こうあるほうが俺にとっても都合が良い」

「えっ? どういうこと? 私わかんない」

「ティアも大人になったら分かる……いや、分からない方が良いことだ」


 ティアは終始首を傾げていたが、彼が納得していることを聞いて、大人しくそれに従うことにする。


『やっぱり、シナヴァリアさんは後悔しているんだ……だから、ティアと遊んで、だから……みんなから酷いことを言われても……』


 彼の優しさを見て、フィアは思い出した。

 幼いティアへの対応と、自分へのそれが非常に似通っていたということを。


 彼は妹に対して何もできなかったことを後悔し、わがままに応じられなかった過去を塗りつぶすように、どんな無茶にも応じていたのだ。


 特に、妹の死から数日後に生まれたティアに対しては、過剰なほどに愛を注いでいた。

 今度は年が大きく離れていたということもあるが、暗い過去がなければ、彼はここまで彼女を重視することはなかっただろう。


 後に冷血宰相となるシナヴァリアだが、自身の妹のこととなると、相当に目が曇る。

 組織の方針と大きく道を違えることになったのも、そうした目の曇りあってのものとも言えた。


 だが、そうした生活は長く続かなかった。


「親父、俺は外に出る」

「……私に教えられることはない。自由にするがいい」

「期限はあるか?」

「ない。私も、早々に死ぬ気はない――だが、外に出るからには、お前に仮の名を与えなければなるまい」


 族長はそう言いながらも、僅かに迷うこともなく「シナヴァリア、と名乗れ」と言った。


「シナヴァリア……か」

「その名が外で広まらないことを期待している」


 激励にしては随分と消極的に聞こえる言葉だが、シナヴァリアは当然理解している。

 仮の名を持って外に出た人物――《カルマ・イグリーズ・ド・グランベール》のグランベールは仮の名である。

 彼女は外界で活躍しすぎた結果、里に戻ったのは死の間際だけだった。


 族長となる身である以上、そこまで派手なことはするな、という意味で彼は言ったのだろう。

 シナヴァリアは親の注意を聞くと、急いでティアのテントに向かった。


 早朝だった。

 彼女はまだ眠っており、そんな彼女を少し揺する。


「ん……なに?」

「ティア、俺は外に行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 彼女のそれが寝言も同然だと分かりながらも、ティアに微笑みかけ、彼は里を発った。


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