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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1274/1603

10q

「どれも同じようなこと、か」


 何年か経った段階で、彼はその結論に到達した。


「どこの国にしても、同じことが起きている。誰もその繰り返しに抵抗していない……いや、できないんだろう」


 彼は口に出し、思考をまとめていた。

 無論、頭の中だけでまとめることもできるようになっていたが、こうすることが楽だと気付いたようだ。


 彼の気付きとは、人には避け得ない繰り返しがあるということ。

 こと統治において、永遠の平和は成立し得ないこと。

 どれだけ賢い者であっても、年によって耄碌するということ。

 どれだけ素晴らしい指導者であっても、その後続に同様の才気が受け継がれないということ。


 これらは全て、統治において大きな問題を生み出す。


「もし、俺がこの里を変えられたとしても、それは小さな変化だ。世代が変われば、簡単に戻る……」


 それは現代において、善大王に言われたことだった。

 物事を決定するのは王などではなく、人々(じだい)なのだ。


 彼は自分の中の哲学を固めていく中で、将来的な里の有り様を考えた。

 そんな時、蔵の扉を叩く音が聞こえてきた。


「誰だ?」

「兄貴……勝負、しよ」

「今は忙しい」

「お願いだから!」


 彼は妹の妙な焦りを感じたが、思考を続ける。


「(俺の思う理想に届かせる為には、この里に住まう――山に住まう一族の意識を大きく変え、それを固定させる必要がある……その障害になるのは巫女だ)」


 今や力量差でのやっかみはない。

 ただ純粋に、自身が目指す社会の構築に巫女という超越者が邪魔でしかない、という結論に辿りついたのだ。


 皮肉にも、それは組織が目指す世界と同じだった。


「最後のお願いだから!」

「俺のような弱い男と戦って、どうなるという」

「……兄貴は弱くなんてない!」

「遊ぶなら他にいるだろう」

「……遊びなんかじゃ」


 しばらく扉越しに聞こえてきた声は、ある時点で止まった。

 彼は心配することもなく、静かになったと本を読み始めた。


『……』


 フィアは扉を開けようかとしたが、やめた。

 自分のできる介入は小さなものだが、この遭遇がもたらす変化が大きいと理解したのだ。

 そして、それをすることがどれだけ無責任か、ということを理解する。


 それから、フィアは彼を見続けたが、いつまで経っても出る気配はなかった。

 そもそも、彼は里に戻っていないのだ。食料などについても、里の誰かが運んできている為、難儀していない。


 日が沈もうかとした頃、フィアはしびれを切らし、女騎士カルマの原本を手に取った。

 彼女は有り余る時間を使い、その内容を理解していた。

 その最終ページの近くを開いた状態で、彼の本に被せた。


 瞬間、シナヴァリアは飛び上がり、構えを取って周囲の様子を窺う。


 扉はもちろん、窓も閉まっている。誰かが入った形跡どころか、気配さえない。


「……落ちてきたのか」


 見上げるが、落ちてくるような高さに本は積まれていなかった。

 不可解に思いながら、置かれたページを見つめた。


「……風の、巫女か」


 彼女の悪戯ではないか、と彼は考えた。

 しかし、彼女がここまで器用な真似をできるとは思えない上、風の流れなどもなかった。


 シナヴァリアは不気味になり、蔵を出た。施錠もきっちりと済ませてから、早足で里に戻る。


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