表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1271/1603

7q

 妹に負けてから、彼はそれまで以上に特訓を行った。


「(兄貴として……次期族長として、俺はあいつに負けていられない)」


 彼は自分に向けられている期待を理解していた。

 だからこそ、常に努力を続けていた。この里を守る為の力を――巫女に依存せずに済む力を求めていた。


『シナヴァリアさんって、熱い人だったんだ。でも、なんであんなに――』


 瞬間、フィアはこの後の未来を予見した。

 これは能力など関係ない、ただの知識によるもの。つまりは、《星》の寿命だ。

 彼が変わりうる事件と言えば、それ以外になかった。


 しかし、彼女の予想は大きく外れ、二人の関係はどんどん悪化していった。


 最初こそは偶然に勝てるといった具合だった妹だったが、次第に運に依存しない命中が増えていく。

 そして、彼女が十才になった頃には、勝負が成立しないほどの実力差が生まれていた。


 彼の努力は熾烈を極め、狂ったように修練を重ねていた。

 それにもかかわらず、彼女との差は縮まらないどころか、引き離されていく一方だった。


 その時、彼は気付いてしまった。


「(俺は、あいつには勝てない……俺程度の力では、誰かを守ることなんてできはしない)」


 彼は自分の力の限界に気付いた。

 いや、彼は巫女と人間の差に気付いてしまったのだ。埋めがたい、絶対的な力量差。


 姉の失踪により、巫女に頼らない統治を考えていた彼からすれば、それは全てを壊す気付きだった。


 だが、彼にも気付いていないことがあった。

 仮想敵が巫女だからこそ無力を知るのであって、彼自身の力は他の人間を寄せ付けないほどに強大であることに。


 彼が強いことを誰もが知っているからこそ、誰も戦おうとはしない。

 訓練にしても、彼の狂気じみたものについて行ける者がいるはずがない。


 だからこそ、シナヴァリアは正当な評価を受けることもなく、自分の力を低く見積もったのだ。


 それ以降、彼は修行をやめ、戦うことをやめた。


「親父、俺の人を治める(すべ)を教えてくれ」


 彼は族長のテントにて、自身の父親と向かい合っていた。


「……お前にはまだ早い。今は自由に生きろ」

「もう十分に遊んだ(・・・)。だが、夢中になりすぎたんだ。時間が有り余って仕方ない――だから、教えてくれ」


 子供とは思えない成熟した態度のシナヴァリアを見て、ウィンダートは何かを察したように、テントの奥を見た。


「学びたいというならば、あの本を読め。時間を潰すにはちょうどいいだろう」

「あれは、外界の本」

「そうだ。あれを見て、どう思うのかを聞かせてもらおう。教えるのは、それからでも遅くはない」


 シナヴァリアは頷き、本を一冊拝借すると、自身のテントへと戻った。

 ただの一冊にしても分厚い、辞書の如く本を選んだのは、どこか自棄でもあったのだろう。


 真昼から真夜中になるまで、彼は読み続けた。暗くなれば明かりを都合し、読み続けた。


 そして、彼は半分にも満たない――それどころか、十数ページの時点で本を閉じる。


「……読めない」


 長い時間をかけ、彼は自身の無知を自覚した。

 それもそのはずだ。彼が選んだのは、ビフレスト王――渡した当時は王子だが――が持ち込んだ中でも一番難しいものである。

 言語の表現が難しく、子供が読む類のものではないのだ。


 そしてなにより、彼は文字が読むことができなかった。

 簡単なものならば分かるが、普段使わないものになると、途端に分からなくなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ