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切り株が印象的な場所で、二人は戦闘を開始した。
風の一族は障害物を用いた超起動能力が強みだが、ここには足場となるものはない。
ただ、それで勝負に影響をもたらすことはないだろう。なにせ、二人とも同じ風の一族なのだから。
高速で走り回り、互いに距離を計り会っていた。
シナヴァリアは距離を取り、彼の妹は接近に努める。
「逃げ回っても勝てないよ」
「さぁ、どうだろうな」
妹が加速したと見た瞬間、シナヴァリアは凄まじい切り返しで接近を行い、彼女の読みを崩した。
加速中で体が引っ張られている彼女に対し、すれ違うようにラリアットを放った。
顔面に直撃し、妹は転がるが、両者とも戦闘を中断しない。
彼女はすぐさま立ち上がり、防御態勢を取る。シナヴァリアであれば追撃を行うと読んでのものだろう。
実際、彼女の読み通り、彼は踏みつけで攻めてきた。
攻撃が空振りしたように思えたが、彼はなおも続行する。
「(……やばっ)」
防御を崩し、彼女は飛び退いた。
シナヴァリアの鋭い踏みつけは、彼女の足があった部分の地面を抉る。
もし、彼女が避けていなかった場合、足の骨はへし折られ――さらに連続攻撃に続いていたことだろう。
ここで攻防が終了し、互いに距離を保ったまま止まる。
「やっぱり兄貴は強いね」
「それほどでもない」
彼は若いながらに謙遜した。
だが、彼の妹はわくわくしたような顔で、彼を見つめる。
「本気で戦えるって面白いよね」
「まあな」
「それでも勝てないってのは、もっと面白い」
「……」
「それを越えてやる! って、頑張れるから」
彼女が大きく息を吸い込むと、シナヴァリアは防御の構えを取った。
瞬間、途轍もない速度で彼女が迫ってきた。
しかし、シナヴァリアは落ち着き払った様子で横に避け、回り蹴りで地面に叩きつけようとする。
「まだ!」
彼女は杭のように足を地面に突き刺し、その足を軸に制動力の蓄積された蹴りを放った。
そのスピードは彼の蹴りの速度を上回り、一歩も二歩も先に到達する。
咄嗟にガードしようとするも、彼の腕は治ったばかりで、動作は反射についてこれなかった。
常人に放てば殺人級の蹴りが胴体に直撃し、シナヴァリアアは吹っ飛ばされる。
その勢いは途轍もなく、一本の木を軋み上がらせ、ようやく止まるほどだった。
そこで、勝負は決着した。
妹は駆け寄ってくると、すぐに心配そうな顔をし「大丈夫?」と言った。
「……大丈夫だ」
そうは言うが、決して大丈夫と言える状況ではなかった。
あの場面、彼はガードを決めることで、耐えきれると確信していたのだ。事実、防いでいれば戦闘続行は可能だった。
戦闘を長引かせない為、攻めに転じすぎたことも敗因だった。
結果的に、彼の骨はひどく折れ、今こうして対応できているのも興奮によるものである。
「さぁ、これで満足だろ」
「……うん」
そう言うと、シナヴァリアは早歩きで――妹を振り払うようにして里へと戻っていった。




