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それから数年が経ったが、風の巫女は戻らなかった。
そして、答えを知らせるように、もう一人の巫女が生まれる。
「……十四年、か。あいつと同じだ」
ウィンダートは子供の誕生に立ち会いながらも、どこか悲しげな表情をした。
彼は巫女と共に生き、彼女らが天寿を全うするのを見てきた。
だからこそ、十四年という年月には気付いていたのだ。
「父さん、この子が巫女?」
「……そうだ」
まだ幼いが、ようやくシナヴァリアがこの里に関わりだしてきた。
「お前の妹だ。兄として、世話をしてくれ」
「うん!」
無愛想だった宰相時代と違い、この頃のシナヴァリアは年相応だった。
さらに年月が経ち、シナヴァリアは特訓を行い、風の一族の名に恥じない戦士として成長していった。
いつの日か、その傍らに彼の妹が居るようになった。
幼いながらも、戦いに興味のあった妹はシナヴァリアと訓練を行うようになる。
「おにいちゃん、いくよ!」
「来い」
風の巫女を相手取りながらも、シナヴァリアは遊ぶようにして彼女の攻撃を受け、躱した。
「おにいちゃんつよおい!」
「まぁな。お前の兄貴だしな」
この時、妹は四歳程度であり、勝つのは当然のようにも見える。
しかし、シナヴァリアも十歳に満たない年齢であり、余裕を持って戦えるというのはかなりのものだった。
そもそも、巫女は十四歳がリミットであるからか、四歳程度でも並大抵の冒険者よりも強い。
そんな相手と体技に限定した戦いとは言え、優位に立てる彼は強かった。
『シナヴァリアさん、この頃から強かったんだ』
彼女は彼の修行風景を見ていた。だからこそ、不意にこぼした言葉とは裏腹に、そこまで驚きはない。
ただ、やはり彼女も《星》のことを知り尽くした者だ。私と同じように、彼の能力を高く評価している。
毎日毎月毎年、シナヴァリアと妹は戦い続けた。
彼は幾ら強くなろうとも努力を怠らず、訓練を続けていたからこそ、数年間は優位に立っていた。
しかし、次第にその差が縮まっていることに気付かない彼ではない。
だからこそ、どんどん訓練はハードになり、体を壊すようなことも増えてきた。
「兄貴! しょーぶやろ!」
「……今は無理だ」
「怪我くらいで? あたしなんて、怪我しても戦えるよ!」
「弱った相手を倒して満足なら、やるが」
「……まだ一度も勝ってないし、それもいいかも」
「やめてくれ」
彼は怒るでもなく、呆れたような態度で応じていた。
なにせ、彼が怪我をしたのは一週間前のこと。彼女は毎日同じ内容で言い、勝負をしようとしていたのだ。
だが、怪我が怪我にならない《星》と違い、人間はそう簡単には治らない。
「治ったら言う。それまで来るな」
「……はぁ? 来るよ! どーせ兄貴、あたしに負けるのが怖いから避けてるだけでしょ」
「なら静かにしていろ。そうしないと、ずっとこのままだ」
そう言われ、ようやく納得したらしく、彼女は黙り込んだ。
それから一週間ほど経ち、シナヴァリアの傷は治った。
怪我、と言われていたが、具体的には骨折していた。それもかなり重いものだったが、そこは風の一族だろうか、並の人間より早く治ってしまった。
「勝負! 勝負!」
「分かった、喚くな」
まだ慣らしも終わっていなかったが、妹のやかましさを鎮めるべく、彼は戦うことを選んだ。