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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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5q

 それから数年が経ったが、風の巫女は戻らなかった。

 そして、答えを知らせるように、もう一人の巫女が生まれる。


「……十四年、か。あいつと同じだ」


 ウィンダートは子供の誕生に立ち会いながらも、どこか悲しげな表情をした。

 彼は巫女と共に生き、彼女らが天寿を全うするのを見てきた。


 だからこそ、十四年という年月には気付いていたのだ。

「父さん、この子が巫女?」

「……そうだ」


 まだ幼いが、ようやくシナヴァリアがこの里に関わりだしてきた。


「お前の妹だ。兄として、世話をしてくれ」

「うん!」


 無愛想だった宰相時代と違い、この頃のシナヴァリアは年相応だった。


 さらに年月が経ち、シナヴァリアは特訓を行い、風の一族の名に恥じない戦士として成長していった。

 いつの日か、その(かたわ)らに彼の妹が居るようになった。


 幼いながらも、戦いに興味のあった妹はシナヴァリアと訓練を行うようになる。


「おにいちゃん、いくよ!」

「来い」


 風の巫女を相手取りながらも、シナヴァリアは遊ぶようにして彼女の攻撃を受け、躱した。


「おにいちゃんつよおい!」

「まぁな。お前の兄貴だしな」


 この時、妹は四歳程度であり、勝つのは当然のようにも見える。

 しかし、シナヴァリアも十歳に満たない年齢であり、余裕を持って戦えるというのはかなりのものだった。


 そもそも、巫女は十四歳がリミットであるからか、四歳程度でも並大抵の冒険者よりも強い。

 そんな相手と体技に限定した戦いとは言え、優位に立てる彼は強かった。


『シナヴァリアさん、この頃から強かったんだ』


 彼女は彼の修行風景を見ていた。だからこそ、不意にこぼした言葉とは裏腹に、そこまで驚きはない。

 ただ、やはり彼女も《星》のことを知り尽くした者だ。私と同じように、彼の能力を高く評価している。


 毎日毎月毎年、シナヴァリアと妹は戦い続けた。

 彼は幾ら強くなろうとも努力を怠らず、訓練を続けていたからこそ、数年間は優位に立っていた。


 しかし、次第にその差が縮まっていることに気付かない彼ではない。

 だからこそ、どんどん訓練はハードになり、体を壊すようなことも増えてきた。


「兄貴! しょーぶやろ!」

「……今は無理だ」

「怪我くらいで? あたしなんて、怪我しても戦えるよ!」

「弱った相手を倒して満足なら、やるが」

「……まだ一度も勝ってないし、それもいいかも」

「やめてくれ」


 彼は怒るでもなく、呆れたような態度で応じていた。

 なにせ、彼が怪我をしたのは一週間前のこと。彼女は毎日同じ内容で言い、勝負をしようとしていたのだ。


 だが、怪我が怪我にならない《星》と違い、人間はそう簡単には治らない。


「治ったら言う。それまで来るな」

「……はぁ? 来るよ! どーせ兄貴、あたしに負けるのが怖いから避けてるだけでしょ」

「なら静かにしていろ。そうしないと、ずっとこのままだ」


 そう言われ、ようやく納得したらしく、彼女は黙り込んだ。


 それから一週間ほど経ち、シナヴァリアの傷は治った。

 怪我、と言われていたが、具体的には骨折していた。それもかなり重いものだったが、そこは風の一族だろうか、並の人間より早く治ってしまった。


「勝負! 勝負!」

「分かった、喚くな」


 まだ慣らしも終わっていなかったが、妹のやかましさを鎮めるべく、彼は戦うことを選んだ。


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