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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1265/1603

風吹く思い出

 フィアの意識は虹色の世界の落ちた。

 ここは彼女が《天の星》としての能力を使い、全てを見通す際に情報を獲得する世界だった。


 この場所には世界の記憶、知識、全てが巡っている。

 かつてスタンレーに対抗できたのも、この世界で彼が見てきた繰り返し(せかい)を追体験したからだ。


 彼女は善大王の失われた過去を強引に奪い返す為に、意識のほとんどをこの世界に落とした。

 逃げ足を用意しない危険な方法だが、そうでもしなければ見つけることができないと彼女は知っていたのだろう。


 しかし……。


「あ……がががががががががあああ」


 探そうとした瞬間、誰のものともしれない情報、話し声、記憶、経験、全てが頭の中に流れ込んできた。

 彼女のやっていることは、本来の《天の星》でさえ負荷で潰れるような行為である。

 それを、彼女は手動(マニュアル)フィルターしかもたない状態でやっているのだから、こうなるのは至極当然のことだった。


 こうなると、自分の考えを整理するどころか、自分の存在を維持することさえ困難になる。

 途轍もない情報量に呑み込まれ、自己という要素をスープから引き上げることができなくなるのだ。


 この状態に、彼女は覚えがあった。

 そう、最初に善大王とあった《光の門》の中である。


 しかし、ここはあの門の中よりも遙かに危険だ。言ってしまえば、彼女が落ちようとした、穴の先である。


「(ライ……)」


 考えが大きな声にかき消され、頭の中には見たことのない景色が巡る。

 藍色の霧の中で向かい合う、吸血鬼と青年と少女。

 煤だらけの通路の中に居る、黒い髪をした四人と《狂魂鎚》を構えた男。

 巨大な風翼獣と空中で戦うべく、黒い翼と《翔魂翼》で飛翔する――人間。


 それがいつの時代の出来事なのか、彼女に知る術はない。

 それは紛れもなくこの世界で起きたことであり、起こりうることだった。

 ただし、彼女にそれを考える余裕はない。ほどなく、彼女は壊れてしまうことだろう。


「……ライトに……会いたい」


 口にするが、発声した本人の頭には届かない。

 得体の知れない情報群が彼女を押しつぶし、そのまま一部に取り込もうとした瞬間――彼女の手が白く輝いた。

 刹那、やかましく頭の中で鳴り響いていた音は、生々しく感じた臭いは――それどころか、目に見える世界も触れる経験も、何もかもが綺麗に消え去る。


「……は、れ?」


 無重力に投げ出されるような感覚の中、彼女は光り輝く手を見た。

 ただ、実際に光っていたのは手ではなく、指にはめられていた指輪だった。


「これって……アルマの? どうして……」

『私たちと……《生命流(ライフストリーム)》と会話する為の術が、刻み込まれているから。《エルフの技法》が、その指輪の中にはあるから』


 その声は聞き覚えのないものだった。

 ただ、それは当然だ。その声は誰かのものではなく、無数の声が混じったような、奇妙な声だったのだ。


「誰!?」

『誰でもない、《生命流(ライフストリーム)》。この世界に生きる……生きた、生命の――死者と生者の集まり』

「《生命流(ライフストリーム)》……? でも、それが意思を持ってるなんて」

「私たちと話せるのは、本当はエルフだけ。私たちを統べるあなたでさえ、私たちとは話せない。あなたが話そうとしないから」


 奇妙な感覚を覚えていた。

 もちろん、フィアはこの《生命流(ライフストリーム)》の存在を認知している。

 ただ、それは本棚のような場所(・・)としての認識であり、それ自体が意思を持っているとは思っていなかったのだ。


「これが《エルフの技法》……どうりでできないはずね」


 こればかりに関しては、彼女もできないことだった。

 そもそも、この世界(・・・・)では《エルフの技法》はエルフにのみ許された技術であり、体系化さえされていない。

 よその可能性の世界を見てくれば、それを見つけることはできるかもしれないが、《天の星》が目敏く探そうとするはずもなかった。


「(もし戻れたなら、アルマにちゃんと、ごめんねをしなきゃね……)」

『あなたの願いは?』

「……ライト――善大王の記憶を探らせて」

『わかった』


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