表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1259/1603

7

 善大王は悩みを振り払うように、光の糸を広げていく。

 無尽蔵に増殖する力に対し、アルマは回避行動の取れない空中。勝負は早々に決するかと思われた。


 しかし、アルマは黒い瘴気を放ち、軽々とこの糸を避けていく。

 規模こそ小さいが、ガムラオルスの《翔魂翼》に近い戦闘様式だ。


「クソ、これだから人間は……殺せる場面で殺さねぇなんて、話が違うじゃねえか」


 混迷を極める状況に戸惑う蝙蝠男だが、橙色の光線が迫っていることに気付くと、軽く避けてみせる。


「ライトを傷つけさせたりしない!」

「確かに、人間にしちゃあお前は十分に脅威だ。だが、あの男のようなイカサマを使えないようじゃ、俺達の相手じゃねえな」


 刹那、凄まじい衝撃が襲いかかり、フィアは吹っ飛ばされた。

 彼女の真横にロード級の魔物が足を振りかざし、殺しにきたのだ。


 だが、フィアはそれを瞬時に察知し、回避した。ただし、衝撃波の範囲外に逃れられるほど、彼女の機動力は高くない。


「お前の相手は、ここに集まった魔物で十分だ。さ、存分に戦ってくれ」


 蝙蝠男は言い、フィアに背を向けて善大王の対処に向かった。


 光の糸は無尽蔵に広がる。しかし、それは力が維持されている期間に限られてのもの。

 アルマを倒すべく、力を振り回す善大王は、あまりにも無防備だった。


「隙だらけだ、人間」


 彼が攻撃をしてきたのに気付き、善大王は力を解除し、転がるようにして回避した。


「なかなかにすばしっこいな。術者ってのは、運動が苦手って聞いてたんだが……どーにもお前はそうじゃないらしい」

「俺は鍛えているからな……!」


 彼はそう言うと、《皇の力》を発動した。

 その瞬間的な起動速度に驚きながらも、蝙蝠男は僅か上を確認し、素早く空中へと逃れる。


 直進する光芒は男のいた場所を通り過ぎ、空中に向かって根を伸ばしていった。


「おにーさん! あたしだけを見て!」


 視界の外から聞こえてきた声に気付き、彼は再び能力を中断し、回避する――が、今度の攻撃は頬に深々とした傷を刻みこむ。


「あたしだけをみて! あたしだけを……ッ!」


 善大王は頬から空気が抜けないことに僅かばかりの安心をしつつ、迷いなく右手を構えた。


「《救世(セイヴァーリパルス)》」


 詠唱が加えられたことで、先の攻撃を上回る速度を叩き出し、アルマの指先に触れる。

 彼女は攻撃の危険性を瞬時に察知し、勢いよく跳躍した。


 白い糸は彼女の指先に絡みつき、触れていた二本の指と連れ添うように、消えていく。

 アルマは素早く自身の手を確認した。


「あたしの指が、ない」


 もぎ取られたというより、消滅させられたという感触。

 骨や肉が飛び出すことはなく、消えた部分だけがそのまま綺麗に除外されていた。

 だが、瞬く間に消えた指の根元から無数の小さな芋虫状のものが現れ、蠢きながら指先を形作る。


 彼女は恐怖を覚えていた。

 触れたのは一瞬――それも先端だけだというのに、体の一部分が完全に奪い去られたのだ。


 しかし、すぐに恐怖を上回る感情が彼女を幸福に満たす。


「この光……この感じ……おにーさんの力だぁ」


 空中から落下しながら、彼の力を浴びた指先を頬ずりした。

 その彼女の表情は恍惚とし、殺されかけたという事実さえも上書きし、幸せを感じているように思えた。


「これがおにーさんの遊びなんだねぇ。一緒に傷つけ合うと、こんなに幸せなんだあ……じゃあ、ぐちゃぐちゃに、あたしと体を混ぜ合わせよぉ?」


 彼女の顔は、途端に狂気に染まった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ