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――洞窟周辺にて……。
フィアの能力によってアルマの所在を突き止めた善大王は、彼女を連れてその場に来ていた。
連れているとは言ったが、正しくは彼女が自主的についてきたのだ。
「(ここにいるのは確かだけど……でも、なんで動いていないの?)」
彼女が真っ先に疑問を覚えたのは、そこだった。
フィアに負けるはずのないという絶対の自信、といえば簡単な話だが、本当にそこまで単純とは思い切れなかった。
「ライト、気をつけて」
「わかった」
二人は歩みを進め、洞窟の中に踏み入ろうとした。
瞬間、暗闇の中から黄色をした一対の光が迫ってくる。
フィアは咄嗟に逃げるように言うが、善大王は迷わず右手を構えた。
彼はアルマに対しても一撃が成立すると読み、回避よりも迎撃で対応するのが適切、だと考えたのだろう。
しかし、それははじめから話し合うことを放棄した、完全な殺しの一手に他ならない。
紋章が輝きを放つと、それまでのものとは比較にならない速度で光の意図が拡散し、アルマに襲いかかった。
だが、アルマはその範囲を読み、顔が地面を擦るような体勢で接近を仕掛けてくる。
噴射された黒い瘴気を残し、アルマの姿が消えた――ように善大王は認識していた。
だからこそ、次の瞬間に自身の真横へと到達していたアルマを捉え、彼は戦慄する。
「くっ――」
フィアは咄嗟に地面を蹴り、アルマを打ち抜こうとした。
だが、彼女の光線はアルマの到達することはなく、黒い蝙蝠の翼に遮られる。
「これがこっちの世界最強ってことか。まぁ、肩書きに偽りなしだな」
僅かに焦げ付いた翼を一瞥し、蝙蝠男はフィアを見つめた。
「魔物……? いつの間に」
「俺だけじゃない。今日はお前らを――いや、そこの善大王を葬る為に、無数の手勢を揃えてきた」
彼が言ったと同時に、彼らを囲うように無数の魔物――それも、ロード級も入り交じった大部隊が出現する。
「なんで……!? 魔物の力だったら、見通せるはずなのに……ッ」
そう言いながら、彼女は虹色の光を宿した瞳で、再び周囲を確認した。
すると、藍色の力の残滓が消えていくのが分かり、この大がかりな仕掛けを施した者の正体が判明する。
「ライム……」
「そういうこった――っても、ここまで用意したのは無駄だったらしいが……」
勝利を確信して振り返ると、アルマは善大王の首筋を撫で、涙を流していた。
「やっと帰ってきてくれたんだね、おにーさん」
その場の誰もが、硬直した。硬直していた。
善大王は《皇の力》で薙ぎ払うこともできず、命を取れる状況で愛撫だけを行う少女に、恐怖を覚えている。
蝙蝠男やフィアも、何故彼女が殺そうとしないのかが分からず、完全に固まっていた。
「おにーさん?」
「誰なんだ……その、お兄さんというのは」
「……おかしいなぁ、おにーさんは、おにーさんでしょ? 善大王で、やさしくて……」
「何を言って……」
反論しようとするが、その言葉が浮かび上がることはなかった。
彼女が誰かと勘違いしていることは確かなのだが、それを否定できる材料が、彼にはなかったのだ。
「俺は……くっ!」
彼は完全に停止していた力を起動させ、光の糸をアルマに向かって走らせる。
彼女もその接近を察知し、空中へと飛び退いた。
「遊ぶんだね! いいよお、また一緒にあそぼ!」