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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1256/1603

4

 ――執務室にて……。


「ただいま……」

「おかえり」


 フィアがボロボロの姿で帰ってきたというのに、善大王は素っ気ない対応をした。

 戻ってきた時にそんな反応だったこともあり、フィアは息を切らせながらも、その場に倒れ込む。


「フィア!? どうしたんだ」

 立ち上がった瞬間、彼は驚いて言う。「その傷はどうしたんだ」


 フィアは突っ伏したまま「少し休ませて」とだけ言うだけで、顔さえ上げなかった。

 善大王は彼女を抱え上げ、ソファーに寝かせると、術を使ってフィアの治療を始める。


 彼の治療からほどなく、彼女は首を動かすようになった。


「大丈夫か」

「……うん。ライトこそ、大丈夫?」

「俺は……大丈夫だ」


 フィアはクスッと笑うと、起き上がった。


「起きて大丈夫なのか?」

「うん。ライトが治してくれたから、少しだけ早く戻ったかな」

「なら良かった」


 彼が安心する姿を見て、フィアもまた安堵した。


「それにしても、どうしたんだ」

「アルマと……戦ってきたの」


 それを聞き、善大王は唾を呑む。


「どう、だったんだ」

「これを見たら分かるでしょ――って、こともないね。アルマに負けて帰ってきたの」


 善大王ならば、アルマを殺して帰ってくる、という想定がないだろうと危惧して彼女は付け足していた。


「やはり、戦うしかなかったか」

「……うん。それに、私はあの子を殺してでも止めようとした。その上で、負けたの」

「フィアが、そこまでするほどアルマは……悪いのか」

「そう、みたい。あの子は何を言っても、曲げる気はないって。それに、アルマの背中から生えてたの、魔物の翅が」

魔物(・・)の……?」

「うん」


 善大王は心配そうな顔から一変し、冷酷な表情になった。


「……そうか。なら、俺の仕事だな」

「え?」

「アルマはフィアからしても、殺すべき相手だったんだろ? そして、今はもうただの魔物――なら、その始末は善大王(・・・)の使命だろ」


 善大王の言っていることが分からなくなり、彼女は一時的に頭が真っ白になるが、すぐに弁明する。


「私がアルマを殺そうとしたのは……うん、まぁ、そうなんだけど、もっと私的な感じっていうのかな……」

「でも、魔物なんだろ」

「そう、だけど」

「なら――大丈夫だ」


 困惑するフィアを、善大王は抱きしめた。


「フィア、ごめんな。これは最初から、俺の仕事だった」

「えっ」

「だが安心してくれ、俺が行くからには……絶対に負けないから」


 フィアはついに違和感に気付く。

 そして、彼女はゆっくりと瞬きをし、瞳に虹色の光を宿した。


「……ライト」

「どうした」


 善大王は抱擁を解き、彼女の顔をじっと見つめた。


「ライト、なんでアルマを殺すなんて言うの?」

「……まだ友達と思っているのか?」

「ほんの少しくらいは」

「なら、ごめんな。でも、相手は魔物だ。さっきも言ったけど、俺の仕事なんだよ――それと、フィアが傷つく姿を見たくないからな」


 能力で分かった上でも、フィアはわけが分からなくなった。

 目の前に居るのは、紛れもなく善大王だった。しかし、それが完全な別人のように思えるのだ。

 善大王の姿をしたニセモノが、何食わぬ顔で生きているような状況だろう。

 そして、その違和感が乏しいのもまた、彼女の恐怖を加速させていた。


「なんで……? ライトは……子供が大好きでしょ? えっちなことがしたいとか、下心がある……」

「助けたいとは思うし、好きだが……」


 その言葉を聞いた瞬間、フィアは最悪の事態が現実になったのだと実感する。

 善大王は《善大王》という存在に喰われ、上書きされてしまったのだ。

 少なくとも、他人が違和感を覚えているだけ、まだ完全に消されてはいない。


 しかし、本人が本人だった記憶は、もう残っていない。残されているのは、彼の能力、彼の当たり障りのない個性くらいのものだ。



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