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「単刀直入に言う。アカリ、お前には外敵の駆逐を任せたい」
「先輩は立場のせいで動けないって感じですかぁ?」
「……私では、対処できない相手だ」
「なら、善大王サマの手を借りたらどうですか?」
「あのお方は、おそらく消せない」
それを聞いた時点で、アカリはうっすら察し始めた。
「この国の巫女様ですかね」
「そうだ」
アカリは引きつった笑みを浮かべ「じつは、あたしでも対処はかなりきついかなーって」と言った。
「それは分かっている。しかし、私では手に負えない相手だ」
「えへへ……実は、向こうで一度、巫女とやりあってきたんですよー」
「雷の国か!?」
露骨に焦りだした宰相を見て、彼女は急いで訂正を加えた。
「む、向こうの国の王様に頼まれてやったことですよ! それに、殺しても居ませんから」
「……そうか。しかし――」
「説明は後回しで。とりあえず、一度やり合った経験から言わせてもらいますけど、あれを倒すのは無理ですよ。ずばり、不死身なんですか」
「不死身? 詳しく聞かせてくれ」
「えっとですねーあんまり状況を見ても分からなかったんですけど、攻撃を浴びせてもすぐに治っちゃうんですよ。だから、もし倒すなら、回復する前に一撃で消滅させなきゃいけないと思うんですよ」
これは初見の情報だったからか、シナヴァリアは驚いた顔をしながらも、感心していた。
「つまり、暗殺は不可能ということか」
「自国の姫を暗殺って、だいぶ飛んだことしてますねぇ、先輩」
さすがに巫女の暗殺、などという大それたことをする人間はそうそうおらず、彼女は呆れたような――それであって、引いているような顔で言った。
「姫は魔物に取り憑かれている。もはや、この国に仇なす者でしかない」
「……なるほどー随分と酷い状況だったみたいですね、この国は」
「そうだ」
「しっかし、こんなことなら向こうの国に残っておくんでしたよ。あっちは大体の問題も片付いたみたいですし」
避難のつもりが、大災害の真っ只中に来てしまったような感触があったのだろう。そして、それはおおよそ外れていない。
「私に手を貸すと言ったからには、弱音は吐くな」
「はいはい、先輩は相変わらず厳しいですねぇ。すまない、くらいは言うもんじゃないですかぁ?」
「お前にそんな言葉が必要とは思わないが」
「ま、その通りですけどね。湿っぽい対応なんてのは避けたいことですけど」
アカリは茶化しながらも、どこか真面目な態度を含ませていた。
「それに、元々は先輩を頼るつもりで来たんですよ? 雷の国の富豪の依頼があったから、ダーインさんのところに行きましたけど。だから、今更弱音は吐きませんよ」
「そうか」
「でも、巫女様の対処はあたしでも無理ですよ――最大火力って言う意味なら、《大空の神姫》とダーインさんは連れて行きたいかな」
「フィア様か、あの方はしばらく出ていると聞いたが」
「出てる……? こんな危ない時期に一人で?」
「善大王様曰く、捜索はしなくていいとのことだが――しばらく前に国を出ている」
平然と言うが、アカリは乾いた笑いを浮かべた。
「それで本当に放置するなんて、先輩は善大王サマが本当に好きなんですねぇ」
「……巫女の彼女が同じ巫女を殺せるとは思わないが、ダーインの方も問題だ。あの男はお前のように身軽ではない」
「やるとすれば、って話ですよ。この国の中で巫女とやり合えるのは、この三人。神姫はともかく、他二人は一人ずつぶつかったところで、勝てませんよ」
泣き言にも聞こえるが、巫女と命の取り合いをしてきた人間など、類を見ない。
だからこそ、これは歴とした情報提供となるのだ。
「……しかしまぁ、善大王サマじゃお姫様は殺せなさそうですねぇ。なにせ、コドモ好きですし」
「そうだな。あのお方の子供好きは私も想像できないほど凄まじい」