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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1253/1603

完成する皇

 ――光の国、ライトロード城にて……。


「先輩、久しぶり」

「久しぶりだな、アカリ」


 二人が顔を合わせたのは、階段の途中だった。


「向かえに来てくれるつもりでした?」

「まさか――お前と話すには、相応しい場所があると考えただけだ」


 そう言うと、彼はアカリの手を握り、引っ張っていった。

 ずいぶんと乱暴な対応だが、肝心の彼女は嫌がる素振りも見せず、演技くさい笑みを浮かべたままついていく。


 地下牢を経由し、到着したのは暗部が使用している部屋だった。

 アカリもよく出入りしていた場所なだけに、懐かしさを覚えるように辺りを見渡す。


「ここで何が起きても、誰も知ることはできない……ってことですか」

「そうだ」

「そういうときは、宿に誘ってくれればいいんですよ? それとも、宰相様がそんなことはできませんか?」


 シナヴァリアはしばらくアカリを見つめ、呆れたように視線を逸らし、席に座った。


「アカリ、暗部に戻れ」

「第一声にそれですか? そういう何の魅力もないことは、体も心も溶かしきってから言うもんですよ、先輩」

「対価は、光の国の情報だ。こちらが掴んだ情報は、報酬とは別に教えよう」


 茶化されても話を続けるシナヴァリアに感化されてか、もしくは本気で気になったのか、彼女の目つきが変わる。


「……どの程度の」

「幹部の人間のみに共有される程度のものだ」

「へぇ、いーんですか? あたしみたいなぁ、野良猫に渡しちゃってぇ」


 甘えたような声で言うが、シナヴァリアの仏頂面は変わらない。


「身内に引き込めるというのであれば、安すぎるくらいだ」

「へぇ、先輩ってそんなにあたしのことを評価してくれてたんですねぇ」

「善大王様の奇跡、耳にしたか」


 アカリは自分から話題が逸れた上、気にくわない人物の話題が出されたことで露骨に態度を悪くした。


「先輩そればっかり。善大王様善大王様って――まぁ、耳にはしましたけど」

「あのお方の力で、当面の安全は確保された。しかし、光の国はまだ大きな難を抱えている」

「……魔物以外になにか、ですか」

「その件を含めて話したい」

「だから、暗部に戻れってことですかぁ? 聞きもせずに、あたしが受けると思いますか?」


 シナヴァリアは黙ったまま、彼女の顔を見つめている。

 真面目な顔に当てられ、アカリは耐えきれずに背後を振り返って見せた。


「それにしても、懐かしいですねぇ。本当に……ここはなーんも変わってないし、先輩も昔のまんま」


 反応を待つが、やはり冷血宰相は――かつての指導役は黙ったままだ。


「変わったのは、あたしだけか」


 どこか寂しそうな、それであって届かせるつもりのない言葉であるかのように、その言葉は小さく呟かれた。


「言っておきますよ、先輩。あたし、あの善大王を名乗ってる男、大嫌いですから」


 それを聞いた時点で、宰相は目をそらし、すぐに「だからこそ、暗部と言っている。軍ならばともかく、暗部ならば私の下につくことになる」と言い返した。


「先輩も、そんな顔するんですね」

「……お前も変わっていない。どこまで真面目に話そうと、茶化す嫌いは相変わらずだ」

「先輩、実はこういうカケヒキ、得意だったりします?」


 彼は何も答えなかった。というより、今に限っては、何を言われているのかが分からなかったのだろう。

 アカリはそれにも気付き、小さく笑った。


「先輩はたーだ言いたいことだけを言って、まくし立ててくると思ってましたよ。でも、ちゃんと聞いててくれたんですね」

「聞かない方が良かったか」

「いいえ? その方が嬉しいですよ」


 アカリは椅子に座る。


「暗部には戻りませんよ。でも、できる限りは手を貸しますよ、後輩として」


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