完成する皇
――光の国、ライトロード城にて……。
「先輩、久しぶり」
「久しぶりだな、アカリ」
二人が顔を合わせたのは、階段の途中だった。
「向かえに来てくれるつもりでした?」
「まさか――お前と話すには、相応しい場所があると考えただけだ」
そう言うと、彼はアカリの手を握り、引っ張っていった。
ずいぶんと乱暴な対応だが、肝心の彼女は嫌がる素振りも見せず、演技くさい笑みを浮かべたままついていく。
地下牢を経由し、到着したのは暗部が使用している部屋だった。
アカリもよく出入りしていた場所なだけに、懐かしさを覚えるように辺りを見渡す。
「ここで何が起きても、誰も知ることはできない……ってことですか」
「そうだ」
「そういうときは、宿に誘ってくれればいいんですよ? それとも、宰相様がそんなことはできませんか?」
シナヴァリアはしばらくアカリを見つめ、呆れたように視線を逸らし、席に座った。
「アカリ、暗部に戻れ」
「第一声にそれですか? そういう何の魅力もないことは、体も心も溶かしきってから言うもんですよ、先輩」
「対価は、光の国の情報だ。こちらが掴んだ情報は、報酬とは別に教えよう」
茶化されても話を続けるシナヴァリアに感化されてか、もしくは本気で気になったのか、彼女の目つきが変わる。
「……どの程度の」
「幹部の人間のみに共有される程度のものだ」
「へぇ、いーんですか? あたしみたいなぁ、野良猫に渡しちゃってぇ」
甘えたような声で言うが、シナヴァリアの仏頂面は変わらない。
「身内に引き込めるというのであれば、安すぎるくらいだ」
「へぇ、先輩ってそんなにあたしのことを評価してくれてたんですねぇ」
「善大王様の奇跡、耳にしたか」
アカリは自分から話題が逸れた上、気にくわない人物の話題が出されたことで露骨に態度を悪くした。
「先輩そればっかり。善大王様善大王様って――まぁ、耳にはしましたけど」
「あのお方の力で、当面の安全は確保された。しかし、光の国はまだ大きな難を抱えている」
「……魔物以外になにか、ですか」
「その件を含めて話したい」
「だから、暗部に戻れってことですかぁ? 聞きもせずに、あたしが受けると思いますか?」
シナヴァリアは黙ったまま、彼女の顔を見つめている。
真面目な顔に当てられ、アカリは耐えきれずに背後を振り返って見せた。
「それにしても、懐かしいですねぇ。本当に……ここはなーんも変わってないし、先輩も昔のまんま」
反応を待つが、やはり冷血宰相は――かつての指導役は黙ったままだ。
「変わったのは、あたしだけか」
どこか寂しそうな、それであって届かせるつもりのない言葉であるかのように、その言葉は小さく呟かれた。
「言っておきますよ、先輩。あたし、あの善大王を名乗ってる男、大嫌いですから」
それを聞いた時点で、宰相は目をそらし、すぐに「だからこそ、暗部と言っている。軍ならばともかく、暗部ならば私の下につくことになる」と言い返した。
「先輩も、そんな顔するんですね」
「……お前も変わっていない。どこまで真面目に話そうと、茶化す嫌いは相変わらずだ」
「先輩、実はこういうカケヒキ、得意だったりします?」
彼は何も答えなかった。というより、今に限っては、何を言われているのかが分からなかったのだろう。
アカリはそれにも気付き、小さく笑った。
「先輩はたーだ言いたいことだけを言って、まくし立ててくると思ってましたよ。でも、ちゃんと聞いててくれたんですね」
「聞かない方が良かったか」
「いいえ? その方が嬉しいですよ」
アカリは椅子に座る。
「暗部には戻りませんよ。でも、できる限りは手を貸しますよ、後輩として」




