11F
――闇の国、隠し牢にて……。
「ごきげんよう。ライカちゃんは――」
「相変わらず、です」
「……驚きですわね。あなたは自国の民を多く殺した巫女を、酷く憎んでいると思っていましたのに」
「なんのことでしょうか」
「きっちりお世話、してくださったようで」
ディードは清掃のことをさしていると考え、「放置するのは不快ですから」と答えた。
「ライカちゃんと、たくさんお話をしてくださったことですの」
何故知られたのだろうかと思い、身を震わせた。
ただ、相手は闇属性の頂点である。それを見抜くくらいは造作もないこと――と彼は自信を納得させた。
「外に連れて行かれるのであれば、顔は隠しておいてくださいまし。かの戦いで、ライカちゃんを知る方は増えていますので」
「これを連れて行くと?」
「老婆心ですわ。では、引き続き任せますわ」
「……はい」
ライムは早々に立ち去った。
彼女が随分と久しぶりにきたもので、ディードは僅かばかり驚いていた。
ライカが壊れた時点で、もう彼女はこないものと思っていたのだ。
今回が偶の監視だったにしては、明らかに変化に気付いていた。
彼はライムの真意を悟りかね、毎日そうするように、椅子に深く腰掛ける。
「……お菓子、今日はねーの?」
ライムの悪戯かと思い、ディードは入り口を直視した。
しかし、入り口は固く閉ざされ、声が届くとは思えなかった。
「おい、どこ見てんの? こっちだし、こっち」
「……何故、話せる」
「そんなの、アタシが知るわけねーじゃん」
ディードは驚くを通り越し、唖然としていた。
どう反応して良いものか、分からなくなっていたのだ。
「……かし」
「なにがおかしい」
「お菓子! ねーの?」
「……ない」
ライカは露骨に不快そうな顔をし、ベッドに横たわった。
「なら買ってくりゃいーじゃん」
「……」
「お前は何故、それをもらえると考えている」
「何回か、持ってきてなかった?」
ライカは生意気な態度から一変し、純粋に質問するようにそう言った。
「分かった。用意する」
「……ってか、アタシも行くし」
「は?」
「ライムも言ってたじゃん、外に行くなら顔を隠して行けって」
「お前、どこまで覚えている。いや、いつから正気だった」
「割とずっと。外で何が起こってるかは大体分かってるつもりだし」
「それがどうした」
「聞かれたから答えただけだし」
言われてみればその通りなのだが、ディードは自身でもよく分からないままに、反論していたのだ。
「さっさと準備するし」
「断る。敵国の人間に――」
「今は、こっちの兵器って話じゃん? なら、丁寧な対応をするもんだし。ってか、前のケーキは微妙だったから、アタシが選ぶし」
言うに事欠いてな相手を目の前に、ディードは苛立ちを覚えた。
「お前は――」
「はいはい、さっさとするしー元隊長の下っ端」
「わたしが下っ端だと? わたしは巫女様直々に、兵器の管理を任された――」
「めんどーな仕事を押しつけられただけっしょ? そーゆーのはいいから、さっさといくしー」
大きな時間の断絶を感じさせる、異様に呑気な子供に気押されるように、ディードは渋々出発の準備を進めた。