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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
125/1603

22

 ダーインは神器の力を勢力に預けるべきではない、と言っていた。

 しかし、アカリはそんな言葉を気にする女ではなく、暗部としての活動中にも運用していた。

 特に、何日も続く類の長期戦において、無限のソウルという要素は凄まじいアドバンテージを叩き出す。


「アカリ、そろそろ頼む」

「……分かりましたよーだ。すぐに決着つけてきますよ」


 目を覚ましたアカリは簡易ベッドから起きあがると、テントの外に出た。

 籠城中の貴族を打ち倒せ、それが今回の任務だった。

 本来ならば裏口から進入して暗殺するのがセオリーだが、偵察の結果、全兵力を周囲の探知に回している為、それが不可能と明らかになった。

 今回は暗部の三部隊が動員され、敵対貴族の通信を妨害しながら、アカリの部隊が正面突破するという流れになっている。

 上位の導力障壁を破壊する為に五日が経っている。休みなく交代で行ってもなお、未だに破壊に至っていないのだ。

 ただ、それも当然。現暗部のトップ曰く、一月で落とせれば上等という見通しらしい。

 案の定と言うべきか、兵は疲弊し、導力の補充として睡眠や食事などを取ることが多くなっていた。アカリという例外を除いて。


「《火ノ二百四十八番・赤龍炎射(ドラグーンズブレス)》」


 最上級手前という火力は、飽くまでも彼女が完全制御できる範疇だった。

 術の発動と同時に小規模の城を巨大な炎の赤龍が囲い込む。その恐怖は内部にいる者に絶対的なまでの敗北感を味合わせる。

 突破されない、という絶対的な自信は導力制御において重要になってくる。この精神的な優位もまた、アカリの一策であった。

 赤龍はその大顎より赫焉たる炎を放ち、城そのものを焼き払わん限りの威力を叩きだす。

 最初こそは火を弾いていた障壁だが、長い戦いによる相手側の疲労もあり、砕け散った。

 破壊と同時に術を停止させる。


「《火ノ四番・狼煙(サインスモーク)》」


 素早く術を発動させると、赤い狼煙が上がり、後方で待機していた暗部の人間が一斉に攻めの姿勢に転じた。

 アカリはその先陣を切り、進んでいく。


「《火ノ百三十番・火炎弾(バーニングキャノン)》」


 巨大で堅牢な城壁の門に劣らない大きさの火球が放たれ、ただの一撃で敵の防衛要所を打ち砕いた。

 門が破壊された報告は敵兵の連絡によってすぐに伝わり、全方位の防御という形態を各揮官が自己判断で解除し、城の正面に戦力を集結させていく。


「相手は高順列の術を使った! いまならば疲労が溜まっているはずだ」


 兵を鼓舞する隊長と思わしき者は、剣を掲げ、城の入り口で構えを取った。


「残念、私に疲れはないんですよ」


 正面突破と思いきや、アカリは暗部としてのセオリーに従い、若干逸れた道から攻めた。

 接触早々、《魔導式》が煌き、術が発動する。


「《火ノ十四番・火華(ダンシングファイア)》」


 複数の火球がそれぞれの兵に直撃していき、一撃で二、三割が無力化にされていった。


「圧殺しろ! 数はこちらが上だ」


 それに応えるように、四名の暗部がアカリの増援に現れる。全員が同じ部隊の人間だ。


「時間稼ぎは任せろ! アカリは相手の指揮官を狙え」

「了解でーす」


 アカリの部隊はかなり特殊だ。本来ならば暗部は総合評価が平均的になるように組まれているのだが、ただ一人突出しているアカリのせいでこの部隊は格闘戦に特化している。


 四人で時間稼ぎをし、アカリの高火力で敵を焼き尽くす、それが核となる戦術。

 事実、この方式で暗部最強と謳われる部隊となった。その実力に偽りはない。

 戦闘はしばらく続き、無傷のまま敵兵を半分ほど減らした時点で、空に打ち上げられた光の玉に気づく。


「任務完了みたいですよ」

「ならば、撤収するぞ」


 隊長の指示を聞いた後、アカリを含めた五名は素早い身のこなしでその場を去っていった。

 言ってしまえばこの作戦、アカリらは陽動部隊に過ぎなかった。本命は防衛が緩んだところを裏口から進入し、気づかれない内に貴族を暗殺するという策だ。

 あそこまで大規模に戦っておいてその作戦。特にアカリという城砦攻略級戦力が投入されているだけに、意外性は高かった。

 そして今回の任務において重要視されていたのは、貴族以外の生存だ。なまじ上位に位置する貴族なだけに、殲滅作戦を行えば大量虐殺となってしまう。

 存在を明らかにされるという点については宰相であるノーブルが手回しをしている。

 当該貴族に仕えていた者達は集団幻覚を見ていたということになり、殺された件についても薬物を所持していたから、ということになっていた。

 実際に貴族の屋敷からは大量の薬物が保存されており、当日に用意されていた食事からも検知されている。

 暗部の手回しだとしても、誰がそれを証明できようものか。

 民衆はそれだけで納得し、狡猾な貴族達ですら、このような方法を取ることができるという威圧に対して沈黙の返答を出した。

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