9q
フィアは完全に一本を取られた。
回避できると見越した攻撃が直撃し、自身の体がぐちゃぐちゃになるのを感じながら、彼女は転がる。
体に残留する黒い瘴気は凄まじい速度で揮発していくが、そこまで身に迫ったものを彼女が見逃すはずがなかった。
「……わかっ、た」
そう言うフィアの瞳は虹色の光を宿しており、表情からは甘さが消えている。
無表情、うっすらと怒りが見える顔だが、アルマはそれを一々観察する余裕はなかった。
「勝てると思ったのお? あたしは、もう昔みたいに弱くはないよ?」
「……うん、みたいね。一応――アルマ、友達として、あなたを助けてあげたいの」
「はあ? あたしはもう助けるとか、助けられるとかそういうのじゃないの。あたしはもう――」
「ただの魔物」
フィアに先制され、強い憤りを滲ませた。
自分で言うならばまだしも、相手に――それもフィアに言われてしまえば、憤怒は高まるばかり。
「へぇ、やっぱりそう思ってたんだあ。あたしのことが憎い? 邪魔? なら戦ってよ。あたしがふーちゃんを壊してあげるから」
「それは私に言いたいんでしょ? 憎くて、邪魔で――そんなの、あの時に戦ったときから分かってた」
あの時、と言われた瞬間、アルマはフィアの瞳の変化に気付いた。
「なに? 全てを知った気になってるの?」
「あなたはただ、私が憎いだけ。ライトの隣にいる私を羨んで、嫉妬して……だから、邪魔だって思ったんでしょ?」
彼女が能力を使わず、自身の目でアルマを見ようとしたのは他でもなく、これを知らないようにする為だった。
第一戦目の時点で、既にフィアはアルマの心中を悟っていた。
その上で、彼女を友達として救う為に、一度は目をそらした。
当たり前だ。フィアからすれば、善大王と自分の間に割り込む存在など、邪魔でしかないのだ。
もし友達がそうなったとしたら、きっと友情よりも愛情を優先すると分かっていたからだろう。
ここで一度我慢できたのは、確かな成長だったが、それを成長たらしめるには相手が強すぎた。
「……だったら何? 逃げるの?」
「今度は、ちゃんと戦ってあげる。もう友達じゃなくて、ただの敵として」
そう言うと、フィアは《魔導式》を展開を開始した。
「きかないよ! ふーちゃんの攻撃はあたしには届かない!」
再び瘴気を放ちながら、高速で迫ってくる。
しかし、今回もフィアは避けない。ただ、その場で構えている。
ただし、これに警戒を示すことはなく、再び貫手が放たれた。
「あつ……あつい、あつい! 熱い!」
アルマは凄まじい痛みを覚え、手を引っ込めた。
だが、彼女の体は凄まじい運動エネルギーを有したままだ。体はフィアに向かって突っ込んでいく。
瞬間、アルマの体は身の内側から光り出し、地面に転がった。
「魔物の力なんかに頼ったのが、運の尽き」
フィアはあの瞬間、《星》の力を用いて、属性変換を行った。
その属性は、光属性。
何も行われていないようにも見えるが、彼女は光属性以外のマナをこれに変換し、純粋な光属性に変化させたのだ。
「光の国では行動できるみたいだけど、やっぱり聖域の出力になると耐えられないみたいね」
フィアの行った属性変換は、純度の変更。量自体は聖域に大きく遅れを取るが、浴びせられるダメージはほぼ同等だ。
これが、《星》を狩るもう一つの手段。
自身を不死身にし、相手から不死身の能力を奪い去る第一の手段とは異なり、相手を直接焼き払う手段。
「最初から、それを用意してたの?」
「ええ、正直私は……弱い子だから。あなたに攻撃を浴びせられた時、これで倒せるって分かったの」
あの瞬間、フィアは黒い瘴気さえも無力化し、耐性を完全に奪い去っていた。
「なんで……なんで」
「よく分からないけど、アルマの力はよく理解できたの。だから、どうすれば防げるのかも分かったの」
アルマはふらつきながらも、起き上がる。
「あなたの力は、負の力。紛れもない、魔物の力」




