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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1246/1603

7

 ――光の国、執務室にて……。


「ふぅ、一休みするか」


 そう言いながら、彼は普段の業務に戻った。

 いつもの彼なら、こう言い出したら本格的に休むか、城下町に行くものである。

 しかし、今は言葉と一致せず、仕事をしているのだ。


 そうしてしばらく書類に目を通し、署名などをしていたが、呼び出しの音が聞こえて作業を中断する。


「なにか問題があったか?」

『……問題は――いえ、問題があった為に、善大王様に確認を、と』ダーインは言う。

「ふむ。言ってくれ」

『善大王様は雷の国には行かれたのですか?』

「ああ、その件か。もちろん、行ったぞ。そして、向こうの国の滅びも回避させた」

『その戦いの中で、ハーディンという男は介入してきましたか』

「してきたもなにも、俺が引き込んだ。奴の銃器製造の能力を利用し、富豪内に情報を共有させ、今はかなりの数が出回っている」


 それを聞いた瞬間、通信の向こうのダーインは露骨に驚いたような反応を見せた。


「……そう、ですか」

「それと、彼の娘とは同じ船で来た。宝具の船だ」

「なるほど、そういうことですか。ある程度は分かりました」


 通信を切ろうとしたのを読んでか、善大王は素早く言葉を発した。


「必要とあれば、彼と繋ごう」

「いえ、今は必要ありません。ですが、必要となれば、伺います」

「わかった」


 通信を通す為の手段を教えようとしても、彼はそれを聞こうとはしなかった。

 ダーインは自身の立場を理解した上で、なるべく不要な干渉を抑えようとしたのだろう。


 そうして通信が切断されると、ノックの音が聞こえてくる。


「シナヴァリアか?」


 問いかけると、扉が開けられた。

 他の誰かならともかく、シナヴァリアには隠し事らしい隠し事はない為、基本的に確認さえ取れれば十分と彼は考えていた。


「善大王様、天の国の件ですが……」

「ああ、すまない。お前にも仕事を任せているというのに、進みが遅くて」

「手を付けるのを、避けているのですか?」

「……どうだろうな」

「悪手ではありましたが、私が手を打ったことで、後は王だけを納得させればいいという状況です。早期に対処すべきかと」


 シナヴァリアの言うとおりだった。

 天の国との同盟締結は難しいことではなく、であればすぐに行うべきことだった。

 しかし、彼はその方向に動いていない。


「最近、どうにも困っている人が目についてな。俺がやるべきではないとは思うんだが、手を出してしまう」


 彼はここのところ、城下町に出ては復興の手伝いをしている。

 王が民に混じって働くのは美談のようで、実際は邪魔にしかならないことが多くある。

 ただ、彼の場合は誰よりもよく働き、よく指示ができていた。


 当たり前だ。彼は少女に愛されるべく、ほぼ全てのことを人並み以上に習得し、それを自身に取り込んでいるのだ。

 故に、ただでさえ神の如く威光を有した善大王は、余計に民から愛されることとなっていた。


 ただし、それは本人も言うとおり、やるべきことではない。

 今の彼にとって最も優先すべきは、天の国との同盟締結なのだ。


「貴族の――国の信用が失われたのも、私の責任ですが、それはあなたのすべきことではありません」

「分かってる、分かってるさ……ただな、どうしても――」


 不意に、彼は疑問を覚えた。


「なぁシナヴァリア」

「はい」

「……俺、どうしてこんなことをしているんだ?」

「はい?」

「いや、変なことを聞いたな。なんでもない――っと、天の国については内々に動いておくから、しばらくそっとしておいてくれ」

「こればかりは後回しは許されませんよ」

「分かっている」


 王の妙な様子を不安に思いながらも、シナヴァリアは執務室を後にした。


「(奴の言うとおり、信用回復は俺がすべきことではない……それについては、あの救世主的な演出で十分だ――ってことは、俺が避けているのか?)」


 そこで思い出し、善大王は黙ったまま頷いた。


「(そうか。フィアを随伴させた方が都合がいいから、アルマの件が解決するまで待つってことで、あんなことをしていたのか。なら、納得できる)」


 彼は自身の行動の根拠さえ、失い始めていた。

 だからこそ、それらしい答えを付随させることで、自分を理解しようとしていた。


 そうでもしなければ、自分が何を考えているのかも分からなくなり、自己を失うと本能で察したからだろう。


「だが、どうしてだろうな……」


 彼は立ち上がると、城下町に向かって歩き出した。

 少女と遊ぶ為などではなく、困っている人を助ける為に。


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