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――光の国、ソルにて……。
「城主の知り合いさ、通してくれないかい?」
アカリはそう言うが、妙に愛想のいい男を連れた子連れの娘を見て、その言葉を信じる者はそうそういないだろう。
「お名前は」
「……この子はヒルト。あたしとそこのおっさんは護衛だから、気にしないでいいよ」
「一応、名前を控えておきたいのですが」
「雷の国、アルバハラの領主、ハーディンの娘と伝えてくれないかい?」
領主の名が出された時点で、門番はただ事ではないと思い、城の中へと入っていった。
「……大丈夫?」
「さ、どうだろうね。少なくとも、平時の頃の知り合いだったみたいだけど――ここのおじさま、どうにも今はかなりの地位みたいでねぇ」
「お父さんのことを、もう友達と思ってないかもってこと?」
「いんや、大人の都合さ。立場があれば、外国の有力者とは簡単には会えないものさ。自分の力を利用されかねないからねぇ」
ほとんどの国が他国からの通信を受けないようにしてもいるのも、そうした都合が絡んでいる。
大海を挟んだ大陸同士ならばまだしも、同一大陸内では互いの力を利用し合えるのだ。
そして、ダーインの地位は第三位司令権持ちの大貴族。他の者よりも余計に神経を使っていても、おかしくはない。
「まぁ、どのくらいの友人かってところかね」
「うん」
視線を逸らした後、ふとアカリは疑問に思った。
「そーいや、急に黙り込んだねぇ。いつものあんたなら、長ったらしく話し出すと思ってたけど」
「いやいや、アカリさんと違って、僕は文字通り裏方ですからね。こういう大事そうな場面ではしっかり黙ってますよ、はい。話して欲しいっていうなら、そりゃもう話させてもらいますけど」
「……別に話さなくて良いよ」
「だと思いましたわ。いやぁ、よかった。ぼかぁ黙ってたり嘘をついたりするのは苦手なもんで、喋り出したら最後、必死に隠そうとしているアカリさんの身分をもらしたりしそうですからね」
虚空に向けていた視線は、饒舌な男の方に向いた。
「何のことだい」
「何のことって言うと、僕が嘘をつくのが苦手とか、そういうことを初めて聞いてびっくり! ってことですか?」
「……なんでもないよ」
アカリは無言で反省した。
ただの運転手に自分の弱みを悟られるなど、彼女からすれば油断に他ならないのだ。
旅の道ずれではあるのだが、彼女としても好き好んで自分の過去や弱みを晒すつもりはない。
だからこそ、この大陸に来てからも警戒している素振りはみせていないし、言葉の選択も考えて行っていた。
実質的に言えば、シナヴァリアが追跡を打ち切った為に、今見つかったところで大きな問題にはならないだろう。
しかし、長年の癖や苦手意識から、恐怖心が完全に消えたということはないのだ。
そうして話している間に、門番が戻ってきた。
「お通ししろ、と」
「はい、ごくろうさん。じゃ、行くとするよ」
すれ違う最中、門番はアカリの手の甲を見た。
もちろん、彼女もその視線には気付いていたが、気にしないような素振りで進んでいく。