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「……なるほどな」
夜更けに、善大王とシナヴァリアは向かい合っていた。
フィアはとっくに眠りについているが、彼は眠ることもなく、己の仕事を続けていたのだ。
「私が余計なことさえしなければ」
「いや、運が悪かっただけだ。それに――言っただろ、俺も手間を掛けすぎた」
シナヴァリアは自身の行動――天の国との同盟締結方法について謝罪していたが、善大王は大して気にする様子ではなかった。
「ただ、人を信じ切れないのはお前のよくないところだ、シナヴァリア」
「公にしたところで、民は信じませんよ。それに、《神皇派》に噛みつかれた時点で、結果は同じでした。素直に、あなたを待つべきだった」
「全て同意するが、歩み寄る努力はすべきだろう」
「善大王様らしくもない。説教ですか」
説教、と言われた瞬間、善大王は驚いたような顔をした。
「何故、そう思う」
「私はことの顛末を全て話したつもりですよ。アルマ姫の起こした奇跡を目にしても尚、民は変わらなかった」
「だから、努力は無駄だと?」
シナヴァリアは頷いた。
「……なるほど、それで俺の言い分がクソほどのくだらない、ただの説教に聞こえたわけか」
「……」
「俺は懲罰の類で、そういう無駄なことを言うのは好きじゃないんだがな」
二人は妙にかみ合っていなかった。
しかし、シナヴァリアは反することもなく、黙って聞いている。
「ものの道理として、求めなければ結果は手元に来ない。分かってもらおうともせず、理解されることもない」
「だからこそ、それを避けたつもりです。だからこそ、失敗は認めています」
「なら、お前は七色の世界で何を見てきたんだ」
今度は我慢などではなく、本当に言葉を失い、彼は黙った。
「聞く話であれば、お前もまた民の意思を感じ取ったんだろう? それを見ても尚、今のような言葉を吐くか」
「やはり、説教ですね」
善大王は笑った。そして、何をいうでもなく、彼の言葉を待った。
「ですが――」
彼は癖のように、民の意思が分かったのは失敗した後と、言おうとした。
反省などではなく、失着の要因を探る彼からすれば、それが自然だった。しかし、すぐに言葉を呑み込む。
「いえ、確かに民草のことを考えていませんでした。少しは――私にできる限り、努力すべきでした」
「反省できたならば、やはり責任を追及するまでもない」
善大王が言わんとしたのは、「お前も奇跡を見て、変われなかった男だ」ということだった。
民の不安などを共有した上で、今のような為政者の面からの意見を吐くということは、本心の部分が変化していないことの証明である。
良くも悪くも、彼はそれが気にくわなかったようだ。
「善大王様」
「なんだ」
「変わりましたか」




