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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1240/1603

星の衝突

 ――光の国、執務室にて。


「お疲れ様です」


 シナヴァリアが部屋に入ってきたのをちらと見ると、善大王は仕事を中断した。


「お疲れ様はこっちの台詞だ。休まなくていいのか?」

「ええ、民でさえあの具合ですから」


 窓の外を見て、大挙する民を指さした。


「まったく、一日二日は休んでからするもんだ」

「善大王様の活躍は、それほど衝撃的だったんですよ」


 絶望と滅びに満ちていたあの状況で見せた、白き光の拡散は人々に凄まじい希望を与えた。

 それこそ、神が再びこの世界に降誕したような衝撃だ。


 教会であれば瞬時に否定しそうなことだが、本質からは大きく逸れていない。

 善大王は――《皇》は神より選出され、その力の一部を分け与えられたものだ|。

 彼が見せた光もまた、(しゅ)の一端であると言っても過言ではないのだ。


「さいですか。それにしても――改めてだが、随分と遅れて悪かったな」

「成果のほどは」

「単刀直入だな。それこそ、一日二日は休んでから聞くものだ」


 茶化してみたが、シナヴァリアが真面目な視線を向けてきたことで、彼は肩を竦めてから話し始めた。


「実際的な成果は思ったよりはない。明確に連結できたのは水の国くらいのものだ」

「……です、か」

「だが、恩は売っておいた。天の国と同盟を結べれば、瞬時に五カ国同盟には持ち込めるはずだ」


 それを聞き、冷血宰相はらしくもなく驚いた。


「さすがは善大王様」

「ああ、我ながら十分な仕事だったと思っている。だが、時間を掛けすぎた」


 そう、彼は王手を掛けるには十分の仕込みをしてきた。

 しかし、それに手間を掛けすぎたのだ。

 結果として助かったからいいものの、光の国は二度も存亡の危機に晒されていた。


「それに……」

「アルマ姫、ですか」

「詳しい事情はフィアを経由で聞いた。だが、詳しくは後日お前からも聞きたいと思う」

「はい」


 良くも悪くも、二人はドライに会話を進めた。

 善大王は知っているのだ。嘆いたところで状況は打開できず、解決するならば考え、進むしかないと。


「しかし……本当に迷惑を掛けたな」

「今更ですか。私は善大王様の迷惑を受け入れるつもりで、この職に就きましたよ」

「まったく、頼りになる宰相だ。こんな便利な奴は引き戻さないとな」

「……私事で動かすと、後で難儀するかと」

「馬鹿言え。神の如く俺が言うんだぜ? 誰が逆らえるって言うんだ。教会もない今、俺が完全にこの国を掌握できる」


 皮肉にも、民が殺到しているのはそれが一因だった。

 教会という心のより所を失ってもなお、こうして民が生き生きとしているのは、彼が戻ってきたからだ。


「ですが善大王様、どうやってあの魔物の対処を?」

「ああ、フィアにも試してもらったが、確かにアレは厄介だった。だが、まぁ――俺には関係ない話だったな」


 実を言えば、二人はかなり早い段階でこの国に戻ってきていた。

 明確に連絡が取れたのが、タグラムが国に戻った頃――つまり、シナヴァリアの本隊が撤退中の頃だ。


 天光の二人は、完全耐性持ちの魔物と戦闘中のシナヴァリア達と合流し、敵を請け負ったのだ。


「あの後も随分と魔物が来たが、それも片っ端に始末していたらあんなに遅れちまったが――まぁ、結果として予定通りだな」


 善大王はたまりにたまっていた戦場の魔物を一掃してから、この城に戻ってきた。

 だからこそ、今に至っても魔物が来る気配はない。相手が進軍を諦めるまで、ひたすら一撃で葬ってきたのだ。

 そして、そんな危険な行動を選んだのは、ひとえに国を信用してのことだった。


「危機を演出して、自身を英雄たらしめる為ですか」

「そういうことだな。英雄どころか神格化されるとは思わなかったが」


 二人がシナヴァリアの部隊を支援したのは、フィアが最も危険な地点だと予測した、というのがある。

 良くも悪くも、現在の光の国の戦力であれば、しばらく持ちこたえられるとも見ていた。


 だからこそ、限界まで引っ張り全員の気をおかしくしてから、活躍することで凄まじい洗脳を行うことにしたのだ。

 善大王らしくないやり方ではあるが、この手法によって彼の存在感は、本来の善大王が持つべきもの――下手をすれば、それ以上に膨れあがった。


「さて、じゃあそろそろもう一つの仕事をするか」


 彼は服のしわを伸ばすと、外で待つ民衆達を見つめた。


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