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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1236/1603

7

 ――光の国、城壁にて……。


 疲弊しきった術者達は、視界の良好な城壁の上から術を放っていた。

 とはいえ、残っている人数は十人にも満たず、大半の術者は攻撃役を降ろされている。


 当たり前だが、この戦いは攻める戦いではなく、守る戦いなのだ。

 だからこそ、兵を長生きさせる方が優先度が高く、魔物を削ることはそこまで重視されていなかった。


 というのも、士気の高かった序盤であればまだしも、この酷い戦いが始まってからはろくに攻撃が通っていないのだ。

 兵はとりあえず生きて、動いているという程度であり、有効な威力を叩き込むことはできていない。

 それは騎士達に限ったことではなく、術者の冴えもなくなり、相手の行動阻害程度にしかなっていない。


 そんな中、一つの声が響いた。


「《光ノ百三十九番・光子弾(フォトン)》」


 棒状の光弾が凄まじい速度で放たれ、ナイト級に突き刺さった。

 片手を振り上げ、騎士に攻撃を仕掛けようとした瞬間、魔物は肉体の限界に達して消滅する。


「無茶をするな」

「……もう倒せると見ました」


 そう言うと、インティは倒れた。

 なにも、彼が余力を残していたわけではない。

 彼は疲労が蓄積していたにもかかわらず、自身の限界に気付いていたからこそ、最後の一弾を打ち込んだ。


 一年もなく、ただの学生に過ぎなかった彼でさえ、ここまで大きな成長を遂げることになった。

 教会がもたらした大きな混乱が、その一端を担っていたことは間違いないだろう。


 人は危機に立たされてこそ、より大きな力を求める。求めればこそ、欲すればこそ、力を得ることができるのだ。


 しかし、この状況の危機因子(ストレス)は明らかに限度を超えていた。

 進化を加速させるには十二分だったが、種の生存ができる数値ではない。


 まさしく、滅びの寸前を誰もが目の当たりにする中、インティの視界に異質なものが映り込んだ。

 誰もが生存すべく、死力を尽くして戦っている光の国において、それはあり得ないものだった。


 僅かな汚れも見えない、白い布。


 それを見た瞬間、彼は尽きかけていた力を奮起させ、腕を杖にするようにして立ち上がる。


「だいぶ出遅れたけど、これで帳消しになればいいんだがな」


 白い法衣をはためかせる彼を見て、皆は沈黙――いや、唖然としていた。


「《救世(セイヴァーリパルス)》」


 彼が右手を構えた瞬間、手の甲に刻まれた紋章は輝き、白い光の糸が魔物で満ちた戦場に広がった。


 まさしく一瞬、という速度でナイト、ロード級の魔物が次々と消滅していく。

 その白き光は疲弊しきっていた騎士達の意思すらも奮起させ、空を見上げさせるほどだった。


 努力も、苦労も、苦痛も、時間も、その全てを無に帰す白い光は何もかもを洗い流していく。


「あと半分か……もうそろそろだな」

「すごい……これが」


 そう言ったのは、インティだった。

 しかし、彼もそうだが、誰もが疲弊しきっていた。だからこそ、それに気付かなかった。


 黒い瘴気を纏った何かが、彼に向かって高速で近づいてきている。

 善大王は《皇の力》を起動している為、簡単に避けることはできないだろう。

 そもそも、気付きさえしていない様子だった。


 だが、橙色の何かが横切り、黒い瘴気を視界の端へと吹っ飛ばす。


「さて、これで終わりだ!」


 まさに瞬く間、何日も戦っていたとは思えない速度で、魔物の軍勢は全て消えてなくなってしまった。


 無数に残っていた光の糸は主へと戻っていくように、城壁の上に立つ男へと集っていく。


 無数の白い光を束ねていく皇の姿を見た誰もが、神の存在を想起していた。


 遠くから見ればこそ、その神聖さはより高まり、近くで見てもなお、その御業の凄まじさにひれ伏してしまう。

 黒の消えた綺麗な戦場を一瞥し、彼は高らかに宣言した。


「善大王、遅れながら帰還した!」


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