表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1235/1603

6C

 シナヴァリアはアルマの攻撃を確実に見切り、次々と避けていく。

 そうして魔物との激戦区にまで移動し、魔物を盾にしながら相手の決め技を封じていた。


 こうなると、アルマも全力では戦いきれず、シナヴァリアのような驚異的機動力を持つ相手を仕留めきれない。


 彼女は強力だが、彼女の技は飽くまでも体技、もしくは魔物の力を纏った物理攻撃にすぎない。

 術のように除外文を設定できない以上、密集地での攻防には適正がないのだ。


 対するシナヴァリアも格闘型だが、彼の場合は攻撃を浴びせる必要はない。アルマの相手をし、ただひたすら逃げながら時間を稼げば良いのだ。


 勝てない相手とは戦わない、これは戦略家の彼だからこそ思いつくやり方だった。

 逆転や努力は考慮しない。やる前から勝てる相手としか戦わず、負ける相手には勝負を挑まない、これが定石だ。

 しかし、この場においては戦わざるを得ない。だからこそ、時間稼ぎを選んだ。


「戦わないの? あたしを殺さなきゃ……」


 アルマは騎士の一人に目をつけると、足下から黒い瘴気を迸らせ、急接近する。

 シナヴァリアであれば対処できる攻撃だが、一兵士ではこれに対応することはできなかった。


「へぇ、できるじゃない」

「……ッ」


 シナヴァリアはアルマの前に立ち、彼女の抜き手を両手で止める。

 騎士は何も言わず、その場を離脱した。


 そこで近接戦に移行すると思いきや、彼は素早く転がるようにして離脱する。

 アルマは子供らしく、つまらなさそうな顔をし、逃げていく騎士を一瞥した。


「なにそれ」

「一瞬であれば、あなたを止めることはできる」

「へぇ、やっぱりあたしとやる気はないんだ。つまらないの」

「……凡人風情が、あなたに勝てると思うほど、自惚れてはいませんよ」

「よく言うね。シナヴァリアさんは才能の塊みたいな人じゃない」


 シナヴァリアは自嘲し「私が? 姫は面白いことを言う」と言った。


「あたしは姫じゃ――」


 言いかけ、アルマは咄嗟に防御態勢を取った。

 冷血宰相は必要な場面ではないにもかかわらず、徒手空拳で攻撃を仕掛けたのだ。

 これは完全なミスだったのだが、いざ攻撃を受けたアルマはそうだとは思っていなかった。


「本当に、よく言うね。あたしを油断させる為?」


 軽口だが、今の攻撃は明らかに彼女が反応できる速度ではなかった。

 ほぼ魔物に変異しきっているからこそ、攻撃を受けても構わないという前提で防御をして、ようやく防げたという攻撃だった。


 浴びせられたところで問題はないのだが、それでもこの土壇場で予測を越えてきたことには、素直に驚きを抱いている。


「所詮、この程度ということですよ。私の力は凡百(ぼんぴゃく)のそれにすぎない」

「……」

(これ)で頂点が取れないと分かって、私はすぐに諦めましたよ。利口に、賢く、効率的に――ただ、諦めたところで、政務が向いていたということもありませんでしたが」


 さすがのアルマでも、言わんとしていることは理解できた。

 そもそも、彼が出自がどこであるかを考えれば、すぐに分かることなのだ。


「シナヴァリアさんのトシからしたら、前の風の巫女に勝てなかった、ってことね」

「……その通りですよ。そこで諦めず、真摯に努力を続けられたならば、私はこの拳を誇っていましたよ。ですが、私は逃げた。そして、それを後悔もしていない」

「でも、そんな力であたしを止めようとしている。口ではそう言ってるけど、すごい未練がましいよ」

「……取るに足らないと思っているからこそ、これを二つに数えているんですよ。一人に任せるよりは、マシだと」


 彼は自身を兵二人分と数え、戦っているといった。

 ただ、これは二倍戦力ということではなく、人並みよりは(・・・)優れていることを示しているだけにすぎない。


「ただ、今のは悪手でした」

「ほんと。意外だったね」


 皮肉なことに、彼は挑発に乗ってしまったのだ。

 というより、挑発でもない言葉をそれと受け取り、攻撃を仕掛けてしまった。

 明らかに悪手だった。


 速やかに黒い瘴気を纏い、アルマはシナヴァリアに迫る。彼は逃げるではなく、最後まで抵抗することを選んだ。


 しかし……。


「あの光……」


 空に浮かぶ白い光を見て、アルマは攻撃を中断した。

 そうして隙だらけになった魔物をみながらも、シナヴァリアもまた、攻撃を止めた。そして、空見て――笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ